駄文倉庫【C】
□企画『お題道場』第1回
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title…やさしくしないで
character…蒼井 巧
「……巧君」
「ん? 何?」
私は大きく息を吸って、また吐き出した。
巧君は、格好良くて勉強もスポーツも何でも出来て、過ぎるくらいに優しい、自慢の彼氏。
だけど私は、優しい彼にかねてから言いたかった事があった。
それはきっと、巧君を傷つけることになるだろう。
だけどこのままでは私が駄目になる。その前に絶対言っておかなければいけない。
もう一度大きく息を吸い込んで、それから口を開いた。
「……私に優しくしないで」
「俺は君に優しくしたいの」
……どうしよう……
速攻で、しかも一言で、至極あっさりと、切り捨てられてしまった。
もっとこう、理由とか聞かれると思っていたのに……
思考回路が混線して、ぐるぐる回りだした私の耳に届いたのは、あくまで優しい巧君の声。
「……理由、聞いて欲しいの?」
「え!? どうしてわかったの?」
「だって君の顔にそう書いてあるもん」
私は慌てて顔を抑えた。それを見てクスクス笑う巧君。なんだか悔しい。
「理由なんて聞かなくってもわかるよ。
だって君の事だから、優しくされたら……怖いんでしょ?」
言いながら、私を背後から抱きしめる巧君。
……ちょっと違うか。
『抱きしめる』って言うより、これは『抱っこ』だ。
そのまま頭を撫でられると、もうあやされているようにしか思えない。
「優しくされたら、俺に依存しちゃいそうで怖いんでしょ?
甘えたで、寂しがり屋で、誰よりも弱い君だから」
さすがに巧君は私を良く知っている。知っているクセに、なんで私の想いを汲んでくれないの?
頭を撫でる手を掴むと、彼はまたクスクス笑った。
「だってそれは、むしろ願ったり叶ったりだもん。
俺は君を手放す気はないから。だから安心して、いっぱい俺に依存して?」
そう言って、私のおでこにキスを落とす、優しい優しい巧君。
でも……駄目。それじゃ駄目なの。
私は、あなたに見合う女になりたいの。
手を引いて貰って歩むんじゃなく、手を繋いで、二人並んで、ずっと一緒に歩いていきたいの。
だから――
「やさしく、しないで……」
「じゃあ……苛めて欲しいの?」
「それはもっと嫌」
「我が儘だなあ」
クスクス笑う彼につられて、私もクスクス微笑んだ。
お願い。私に優しくしないで。
これは私の決意なの。
これ以上あなたに依存して、駄目な女になりたくないから。
私いっぱい頑張って、あなたに見合う女になるから。
だから、その日まで――
――私に優しくしないで。
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