とれじゃーぼっくす

□ ・志乃様より・
 『rainbow』西園寺瞬
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「あ、虹だ。」

雨上がりの中、紫陽花が湛える雨露が雲から顔を出したばかりの太陽の光に反射してきらきらと宝石のように輝く。

私たちは手を繋いで、まだ水溜まりの残る道を散歩していた。
少しだけまだ肌にしっとりとした空気が残っている。

その矢先に彼が遠く彼方にかかる七色の虹を見付けたのだ。
あまり大きな虹ではなかったが、雨上がりで出会えたのは幸運だったと言えよう。





余りにも隣の彼が目を細めて、儚い虹を眺めるものだから、私はその虹を見つめる彼の横顔を見つめる。
今では遥かに越されてしまった彼の身長、手の平の大きさ、一段低くなった声。
少年は青年へと変化を遂げてゆく……。





でも、その横顔はいつまで経っても変わらない。
心奪われた瞬間に見せる澄み切った眼差しはいつも貴方とともにずっと変わらない在る。
私はそんな彼の横顔がとても美しいといつも思う。





「描きたいなあ……。」

彼は虹を眺めながら呟いた。でもそれは叶わぬ夢のようにどこか手が届かないもののようにも聞こえた。

「瞬くんなら描けるんじゃない?」

私の言葉に彼は横に首を振る。そして繋いでいた私に絡めた指をそっと握りなおした。

「虹は儚いから描いている途中で消えてしまうから描けない。ましてや紫ちゃんと見ている虹は描くよりも一緒に見ている時間の方が大切なんだ。だから絵じゃなくて記憶に残しておく。」

そう言って彼はわざと大きな水溜まりを跨いで、こちらを振り返り笑顔を見せた。
私もつられて笑顔になる。





きらきら、遠い空には七色の虹。
きらきら、紫陽花の葉には輝く露。
きらきら、きらきら。
そこにいるのは私とそして彼。





rainbow




 

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