Clap Log

□謙光 ハロウィン 
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「トリックオアトリート!!」

「……………」

「トリックオアトリート!!」

「……………」

「トリ…」

「うっさい」


近づいてくる謙也さんの顔を手で押し返すと、酷い!とか騒いどったけどそんなんシカトや。


今日は10月31日。
ハロウィンとかいうヤツや。

世間ではお祭り騒ぎの奴らが仮装したりパーティーしたり、いろいろやっとるみたいやけど、もちろん俺は興味がない。

まぁ、予想通りと言うか何と言うか…
この人はこういうイベント好きやからなぁ…
さっきからめっちゃうるさい…


「今日はハロウィンやで!光知らんの?」

「…知っとりますけど、そんなん外国の祭りやん」

「関係あらへんわ!楽しんだモン勝ちや!!」


…意味分からんわ、この人

後ろで騒いでる謙也さんを無視して、やりかけのパソコンに視線を戻した。


「ひかるー…」

「………」


後ろからギュッと抱きつかれ、謙也さんの息が耳にかかる。

熱っぽい、そんな息。


「なぁ、トリックオアトリートって言われたら、どうするんか知っとる?」

「……は…?」

「お菓子を出さんと…悪戯されるんやで…」


少し低い声で囁かれ、謙也さんは俺の顎持って後ろを向かせるとゆっくり顔を近づけた。



…やっぱ、そういう事やったか…



「はい、どうぞ」


もう少しで重なるハズだった謙也さんの唇に、手に持っていたそれを押しつけた。


「え、え…?」

「欲しかったんでしょ、お菓子」


謙也さんはアホみたいな顔して俺の手から小さな包みを取った。


「今日クラスの女子から貰ったんで、あげますわ」

「…おおきに、……やなくて!ちょお空気読んでや!!」


謙也さんはまさか俺がお菓子を持っとるなんて思ってなかったんやろ、えらい落ち込みようや。


「謙也さんが俺に悪戯しようとするなんて予測済みや、せっかくあげたんやからちゃんと舐めてや」

「……ほんならこれ舐めたらもう一回…」

「あ、まだいっぱいあるんで、全部食べれるんやったらええですけど」

「…………」


俺と違って甘い物が得意やない謙也さんはアメですらそんなに食べれへん。

…今日は俺の作戦勝ちや

諦めたのか謙也さんは床に座り、半ばヤケクソになりながら俺があげたアメを口に入れた。

「甘っ!」とか言いながら予想以上に落ち込んだ表情の謙也さんを見て、俺は小さく息を吐いた。



この落ち込みよう…
どんだけ楽しみにしとったんや…

アホみたいな考えやったけど
一生懸命やったんやろなぁ…


………

………

………

……しゃーないな


このアホな人に惚れた俺も悪いねん…




口の中のアメと格闘中の謙也さんの前に座り、俺は口を開く。


「トリックオアトリート」

「……へっ…?」

「トリックオアトリート」

「…何も…持ってへんよ…?」

「嘘。持ってるやん…」


俺は謙也さんの唇に自分の唇を重ねる。
ポカンとしとる謙也さんの少し開いた口の中に舌を入れ、中にあるアメを探った。

謙也さんの口の中はアメのせいでめっちゃ甘い…
なんか普段とちゃうから、ちょお興奮するんやけど…


ジリジリと身体の中心が熱くなってきたんが分かり、謙也さんからアメを奪い取って唇を離した。



「ごちそうさまです」

「…!?ひ、ひか…!!それっ…悪戯ちゃうの!?」

「ちゃいますわ、アメもろただけやもん」


謙也さんの驚いた顔がおもろくて、俺は小さく笑みをこぼした。

甘いアメを口の中で転がしとると、謙也さんの手が俺の頬にそっと触れ、唇を指でなぞられる。


「…ひかる…もっかいしてもええ…?」

「……は?せっかくアメ取ってあげたのに俺の好意を無駄にする気ですかアンタは…、…それに、俺の口ん中めっちゃ甘いで…」


俺の言葉を聞いた謙也さんは、思わずドキッとするような優しい笑顔を向けた。



「なぁ、知っとる…?…光とのキスはアメなんか比べもんにならんくらい…いつも甘いんやで…」



謙也さんの顔がゆっくり近づいて、触れる瞬間、頭の中でふと考えた。





お菓子持ってても持ってなくても

結局悪戯されるんやん…





でも…


たまにはこんなんも…

悪ないな…

…なんて。



END






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