Long

□8days
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『それ』を見つけたのは偶然やった。



いつもと同じように寝る前の日課としてパソコンの前に座っとった俺は、最近謙也さんに借りたCDの曲をパソコンに取り込む作業をしとった。

もうブログも書き終わって特にやる事もなくなってしもたから、取り込んどる時間がえらく長く感じてイライラする。
ゆっくりと進むバーを見るのにも飽きて、隅の方に表示されとる広告に何気なく視線を向けると…。


「……え…、なんやこれ…」


思わず声に出してまうぐらい、俺が見たものは変…というか妙なもので。
暇潰しとでも言うように、その広告に書いてある文字を目で追った。



『効果は一週間、どんな相手も貴方に惚れる魔法の薬!一粒五千円!』



そんな馬鹿げた文字の横には飴の写真と、恋人らしき二人の男女が笑顔で写っとる。


…うわ、めっちゃさぶい…
飴舐めたぐらいで惚れるとかありえへんし…!


呆れにも似た苦笑を漏らしながら眺めとると、いつしか取り込みが終わっとったみたいで『完了』の文字が映し出された。

これが終わればもうやる事はあらへん。

CDを取り出し、パソコンの電源を切ろうとしたその時やった。
先程まで見とった広告の文字がパッと変わり、俺はマウスを動かしとった手をピタリと止めて、でかでかと映し出される文字を見つめてしもた。


『ここを見てる貴方だけに今なら一粒無料でお届け!』


…なんて陳腐な謳い文句なんや。

こんなん商品を買わせるだけの上等手段。

誰が引っかかるんやろ…


今度こそ電源を切ろうとマウスを動かそうと手に僅かに力を入れたその時やった。


「……あ…」


ピロン、と、軽快な音を立てて、画面が切り替わる。
無意識のうちにマウスをクリックした事に気付き、広告がディスプレイに大きく表示されとって。
パソコンの画面に映し出された『注文ありがとうございます』の文字を見つめたまま、俺は大袈裟に溜息を吐くしかなかった。


…まぁ、押してもうたんならしゃーない。
今は広告使って一般人が悪戯するんも増えとるし、こんなインチキ商品ホンマに届くんかも分からへん。

万が一届いてもどうせタダやしシカトすればええんや。
しつこく「また買え」とか来たらウザいけど…それはなんとかなるやろ。


妙な気分のままパソコンの電源を切り、部屋の電気を消してそのままベッドに横になる。
身体を柔らかい布団に沈め、薄暗い部屋の天井をぼんやりと見つめた。



明日からの土日は学校も部活も休みやし…

…久しぶりに買い物…行かへんと…

……新譜とか…出てるやろ…な…



重くなった瞼が自然と落ち、目の前が真っ暗になると、そう時間も経たんうちに俺はゆっくりと意識を手放した。





まさか、この日の些細な事が運命を左右するほどの重大な出来事を引き起こすなんて…


さっきまでの俺も

夢の中の俺にも


想像する事すら出来んかった…





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