Long

□★この恋=危険域
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セックスって何の為にするん?





子供を作る為

愛を確かめ合う為

快感を得る為



普通の人やったらこんな答えが返ってくるんやろうけど




俺は違う


俺は…




「…ッん!…あ…」



俺の考えを遮るかのように、急に律動が開始され、思わず声を上げてしまった。
薄暗い室内で俺の声と、下から聞こえる水音が妙に響いた。


「ちょ、…あッ…なに…」

「もう一回ヤらしてや…」


上からの切羽詰まった声を聞き、繋がったままの状態から気だるい身体を起こした。


「アカン、約束とちゃうやろ」

「でも、まだ…」

「約束守れへんのやったらアンタとはもうせえへん」


冷たく言い放つと押し込まれていたものが引き抜かれ、俺はハァとため息をついた。

ようやく解放され、そこら辺に散らばった衣服を集める。
袖を通していると後ろから腕が回り、ギュッと抱き締められた。


まだおったんかコイツ

早よ出てけばええのに



「なぁ、今度はいつシてええの?」

「さぁ…」

「冷たいなー、シてる時はめっちゃかわええのに」


耳元でそう囁かれ、嫌な顔をして振りほどく。
埃っぽい教室のボロいドアを開けて明るい廊下に足を踏み出した。



「ほな先輩、お金、おおきに」






セックスは何の為にする?





俺は




お金の為にする


ただそれだけ。














午後の授業も終わり、俺は必然的に部活へ向かう。
先程の情事の疲れからか授業中は完璧に寝ていたため、小さな欠伸をしながら部室のドアを開けた。


「あ、ひかるー!遅かったやん」


入った途端遠山のうっさい声が響き、思わず顔をしかめた。


「別に普通やろ」

「いや、ちょお遅刻やな、どうせ居眠りしとって授業終わったの気付かへんかったんやろ」


後ろから声が聞こえたと思ったら、すでにユニフォームに着替えた部長が、俺の遅刻理由を当てるというオマケ付きで登場した。


なんやこの人

ホンマにエスパーちゃうん?


「白石ー!ワイもうコート行くで!」

「金ちゃん、あんまり暴れるんやないで。あ、財前、早よ来んとめっちゃ走らせたるからな」


遠山が出ていったのをキッカケに部員がぞろぞろと外に出ていき、部室は静まり返っていた。

着替えを始めようとロッカーを開ける。
今日は何するんやろ、ダブルス練習せえへんかな、と考えていると、急に部室のドアが開き、その音に身体がビクッとなった。


「おわっ!光やん、誰もおらんと思っとったからビビったわ!」

「ビビったんはこっちやし、ドア壊す気ですかアンタは」


すまんすまん、と言いながら部室に入ってきたんは汗びっしょりの謙也さんやった。
いつも部活に来るのは早いぐらいなのに珍しい事もあるんやなと見ていると、俺の視線に気付いた謙也さんが口を開いた。


「授業が終わったら先生に呼び出されてしもてな、遅刻しそうになっとったからめっちゃ走ってきたわ!」

「間に合ってへんやん、浪速のスピードスターが聞いて呆れますわ」

「なんやと!見てみ、この汗!間に合わんもんは間に合わんっちゅー話や!」


謙也さんは暑い暑いと騒ぎながらシャツを脱ぎ始め、俺も途中だった着替えを再開する。

シャツを脱ぎユニフォームを取り出すと、なにやら隣から小さな声が上がった。


「…ひ、光…」

「何すか」

「………」


返事をしたのはいいものの、なかなか次の言葉が返って来ない。
不思議に思い目を向けると、謙也さんは俺の胸元あたりを凝視しとった。

え、なんやの
変態なん?


なかなか視線を外さんから自分の胸を見ると、俺はそこにあった『印』に顔を歪ませた。


うっわ…
ありえへん…

あいつキスマークなんか付けよって

一発殴ったろ



いつ付けられたのか全く記憶にあらへんし、こんなん付けてええなんて言うとらんし。


「…光って…」

「え?」

「彼女…おったんやな」


…は?
何でそうなるん?


俺がまた目を向けると謙也さんは俺の胸元から視線を外していた。


「彼女なんておらんし」

「別に隠さんでもええやん、キスマーク付けるっちゅー事はそういう相手おるんやろ」

「ホンマにおらんて、彼女も何も、誰とも付き合うてへんわ」

「せやかて…」


謙也さんはめっちゃぎこちない笑顔で話しとったけど、急にハッとした顔をして俺を見つめた。


「あ、あんな…、俺…今からありえへん事聞くけど…本気にせんでな…?」


謙也さんが不安そうな顔で覗き込むから、俺は変に緊張して静かに頷いた。


「たまたま誰かが話してたんを聞いたんやけど…、その…光が…身体売ってるって…」


謙也さんの言葉に俺は少なからず驚いた。
その俺の顔を見た謙也さんはサーッと顔を青くし、めっちゃ勢いよく謝りだした。


「す、すまん!めっちゃ変な事聞いてしもたわ!ありえへんよな、ホンマごめん!身体売っとるなんてそんなん…」

「別に謝らんでええですよ」

「や、でもめっちゃ嫌やったやろ?ホンマにごめんな」

「だから謝らんでええって、それ、本当の事やし」


ピタリと謙也さんの表情が止まった。

俺は頭ん中で、今日相手にした奴謙也さんと同じクラスなんやろか…とボーッと考えていた。

着替え終わり、ラケットを持とうと手を伸ばすと、横からいきなりガシッと腕を捕まれた。
テニスしてる時みたいな真剣な顔で、真っ直ぐ俺を見つめている。


「…嘘…やんな?」

「嘘やないですわ、嘘ついた所で俺に何のメリットもあらへんし」


そう言うと、謙也さんの手の力が弱まり、それを振り切るようにしてラケットを手にした。

俺はそのままドアに向かい、何事もなかったかのように外に出る。


「光!!」


後ろから呼び止める声。


もうええやろ

ええ加減部活したいねん


「まだ聞きたい事あるん?」


振り向くと、謙也さんは泣きそうな顔で口を開く。


「…金くれたら…誰でもええんか…?」

「ええですよ、あ、別に謙也さんでもかまわへんし」


笑顔でそう答え、俺はドア閉めた。


閉める瞬間、「…笑えへんわ…」と小さく呟く声が聞こえたような気がしたが、そんな事はどうでもよかった。









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