Long

□★この恋=危険域
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本来なら授業中やというのに、俺は埃っぽい床に抑えつけられていた。

薄暗い教室に響き渡る笑い声。
もう幾度となく聞いたその声は、いつまで経っても慣れる事は出来んくて。


「うあッ…!あ…、やぁ…ッ」


奥を突かれる度、身体に込み上げる快感と嫌悪感。
覆いかぶさる奴の顔を見ただけで吐き気すら感じられ、その行為中、俺はずっと目を固く閉じ、必死に耐えるしかなかった。


「あーアカン…もお出そうや…」

「はは、お前どんだけ早いねん」


「…ッ…!」


次の瞬間、俺の中に先輩のが吐き出され、ずる、と引き抜かれる感触がした。
息をつく間もなくもう一人奴のが宛がわれ、俺の足を持ち上げる。


「ほな、次は俺の番やで」


…あと一人…
コイツで最後や…


俺は恐怖に震える手を強く握り締めた。




毎日のように繰り返される行為。
暗い教室に連れ込まれ、顔すら知らんような奴のを受け入れて…
泣きたくなるぐらい嫌で…嫌で…
でも俺は、学校は休まんかったし、先輩達の誘いも断らんかった。


俺が嫌だと言ったら…

どうなる…?

こいつらは俺が誰かと付き合うてるって、好きな奴がおるって、また勘ぐりだすに決まっとる…
もう…あれ以来謙也さんとは会ってへんし、顔すら合わせてへんから…、あいつらに気付かれる可能性は低いんやけど…

俺が謙也さんと一緒におった所を見られとったら…?
教室に迎えに行っとったのを見られとったら…?

そう考えると、怖くて怖くてしゃーない…

俺のせいで、あの笑顔がなくなるんは嫌やから…
あの人数に囲まれて…暴力沙汰にでもなったりしたら…
アンタの大好きなテニス…出来なくなってしまうかもしれへん…

…そんなのは絶対嫌や

せやから俺は、素直にこいつらに抱かれるしかない…
元々自分が蒔いた種や、俺が我慢すれば全て上手くいく…

こんなん平気や…

だって俺には前には持っていなかった大切なものがあるんやから…


『ずっと前から好きやった』


この言葉が俺の中にあるだけでどんな事だって我慢出来る…

もっと早く
自分の気持ちに…、謙也さんの気持ちに気付いとったら…

俺は…
…俺達は…

また違った道を進む事が出来たんやろか…


















「じゃーな財前、今回もめっちゃ良かったわ」

「放課後、忘れるんやないで?」


授業の終わりを告げるチャイムが鳴る5分前、先輩達は俺を一瞥するとさっさと教室から出ていった。
俺はあまり力の入らない身体で脱ぎ散らかった制服を集める。

…放課後…
またここに来んとアカンのか…

無理矢理させられた約束。
もちろん、破る事は許されない…


手早く制服を着て、俺はその教室から逃げるように駆け出した。

一秒でも長く、こんな場所にはいたくない…


走っている途中でチャイムの音が廊下に響き渡り、ぞろぞろと教室から出てくる人の波に逆らって自分の教室に入る。


…あ……


俺はそっと自分の席に近づいた。

アカン…忘れとった…


謙也さんの教室から見えたこの席は、こっちからも謙也さんの席が見える訳で…
あの日から、ずっと締めたままのカーテンを今日は開けたまま行ってしもた…

窓の外に見える向こう側の校舎…
俺はそれを見ずに開いたままのカーテンをゆっくりと横にスライドさせた。


アンタはいつものあの席に座って…
この空席を見て何を思ったんやろか…


俺は椅子に座りながら太陽の光で明るくなったカーテンを見つめた。


なぁ…
謙也さん

ずっと前から好きやって
アンタは言うてくれたけど

アンタが好きやった財前光は、ホンマに俺やったんかな…?


テニスを一緒にしとった、生意気な、先輩の事を先輩とも思わんような態度の…財前光…?

上辺だけの俺を好きになったんやないの…?


…………

何言ってんねん…

そんなんちゃうって…自分が一番分かってるくせに…

謙也さんは、俺が身体売ってるって知ってから…俺を突き離そうとしたか…?

ちゃうやろ…?

ずっと傍におってくれたやん…
誰よりも、近くにおって守ってくれたんや


そして俺に教えてくれた…

一緒に笑い合える幸せ

誰かを想う気持ち、想われる気持ち

セックスをする、本当の意味…


大切な事を教えてくれた

それやのに…
俺はアンタやない違う誰かに抱かれとる…







謙也さん…



それでもまだ…

俺の事が好きですか…?













約束だと言われた放課後、クラスの用事が長引いてしもた俺は、息を切らしながら教室の前に立っていた。

嫌な思い出しかない、あの教室に…。

ドアを開ければそこから先は地獄が待っとる。
その恐怖に上手く呼吸を調える事も出来へんし、足も前には進まへん…

でも…
逃げる訳にはいかん…

震える身体に言い聞かせて、俺はガラガラと音を立ててドアを開けた。


「お、遅かったやん、来なかったらどうしようかと思っとったわ」

「はは、来なかったらどうなるかなんて…そんなんコイツが一番良く分かってるやろ、なぁ…財前」


いつものように待ち構える先輩達。
こんな光景…
あと何回見れば終わるんやろか…

その場に立ったままの俺の腕を引き寄せ、床に投げ付けられる。
ドアをぴしゃりと閉められ、一層暗くなった教室で俺はじわじわと高まっていく恐怖に唇を噛み締めた。


…5人…

ほぼ全員に近い人数が俺を取り囲み、ニヤニヤ笑いながら見下ろしとって…

今日はすぐには帰れそうにないなぁ…なんて考えとった。

そんな事を考えても恐怖を煽るだけやのに…


「せや財前、今日は5人だけやと思ったら大間違いやで?」

「なんや?まだ誰か呼んでるん?」

「この前話したやろ?ええ金儲け思いついたって」


急に近づいて来た一人の先輩が俺の制服の力任せに引っ張った。
ボタンが弾け飛び、こいつらのつけた印が露になって…
ねっとりと嫌な視線を向けられ、俺は思わず顔を背けた。


「来たらちゃんとサービスしたれや?大事な客…なんやから…」


…客…?


「何も心配せんでも…お前がやってた事やろ?」


…まさか…
こいつら…


「そう、お前はまた身体を売るんや、俺等から取った金、ちゃんと返してもらうで」


下品な笑い声が俺を取り巻き、近くの廊下からここに近づいてくる足音が響いた。


自分のしてきた事で自分の首を絞める…
…自業自得
今の俺にはこんな言葉がピッタリやな…

もう誰が来ても…一緒や…
何でもええから…早く終わらせて欲しい…


ドアが開く音が聞こえても、見る気すらなれんくて…
俺は入って来た人物の足音を呆然と聞いていた。


「お、来たか、こっちや」

「へー…、まさかお前みたいな奴が男に興味あるとは思わんかったわ、充分女にモテそうやん…えーと…名前は…何やったっけ?」


先輩のその言葉に俺は少しだけ、ほんの少しだけ…視線を上げた…
そこに誰が立っているかなんて想像もしてなかった俺の目に映ったのは…


映ったのは……





「…忍足謙也や」





見た事もないぐらい怖い顔をした





謙也さんやった…











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