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□★この恋=危険域
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ぎりぎりと抑えつけられる腕が痛い
無理に開かれた足が痛い
ギュッと噛み締めた唇が痛い
アンタの顔を思い出すたび
胸が
痛い…
「へぇ…、やっぱり本命がおるんやなぁ」
俺の胸にある印をなぞりながら先輩達はニヤニヤと笑う。
中途半端に脱がされたシャツから見え隠れするキスマークは、俺にとって凄く大切なものやった。
消えそうになる度に同じ場所に何度も何度も付けられるそれは、アンタのものになったみたいでホンマに嬉しかった。
錯覚でもええ…
一瞬でもそう思える事が幸せで…
ずっと消える事のない印は、特別だという証のように思ってたから…
「…汚い手で触んなや…!」
唯一抵抗出来るんは口だけで、震えてしまいそうになる唇を必死に動かした。
「おー怖、汚い手やって」
「あはは!余裕やなー財前くんは」
「へー…これつけた奴ん事、ホンマに好きなんやなぁ…、壊したくなるわ…」
一人の先輩が俺の胸元に唇を近づけ、赤く染まった印に舌を這わせた。
肌に伝わるねっとりとした感触がホンマに気持ち悪い…
「…やめ…ッ!」
ピリッと、小さな痛みが走る。
謙也さんがつけた跡の上からキツく吸われ、鬱血の色が更に濃くなった。
それに気を良くした先輩は何か所も何か所も、首から胸にかけて無数の跡をつけていった。
「あはは、なんやめちゃエロいなぁ」
「こんなん本命の奴に見られたらアカンやろー」
俺は悔しさに顔を歪めた。
視界がぼやけ、周りの風景が霞んでいく。
嫌や…
こんな奴等の前で…
「あれ、財前泣いてしもた」
「ホンマや…、あぁ、もう我慢出来んのとちゃう?焦らさんと早よ挿れてやーっちゅー事やろ?」
「…ちが…ッ…!」
下劣な笑い声と共にズボンと下着を脱がされ、胸につくぐらい足を曲げられる。
既に勃ち上がっている先輩のをあてがわれ、俺は思わず息を飲んだ。
「…は…、…いッ…あぁ…!」
慣らされてもいないそこは無理な挿入に悲鳴を上げギチギチと音を立てていたが、先輩は構わず奥に腰を進めていった。
「…う、あぁ…ッやぁ!」
「なんや、前より感度良おなってんのとちゃう?」
何度も抜き差しされるうちに、中の滑りも良くなって…
痛みの他に湧いてくる感覚に吐き気がした。
快感に慣れ過ぎた身体は、どんなに意識をそらそうとしても全然言う事聞かんくて…
…こんな無理矢理ヤられて感じとるなんて…
ホンマ最低や…
「んんッ…、あ、あぁッ…!」
「はは、ええ顔やなぁ…、心配せんでも俺一人じゃ終わらんからまだまだ気持ち良おなれんで……、…ッ…」
ドクンと、中に熱いものを感じた直後、先輩のが引き抜かれた。
息をつく暇もなく次の奴のがあてがわれ、俺はまた溢れそうになる涙を堪える為に目を閉じた。
どれだけ時間が過ぎても終わる事のない行為。
俺の身体を弄ぶかのように次から次へと違う奴に犯され、俺の身体も、心も…もう限界やった。
涙なんかとっくに枯れとって、声すらもまともに出えへん…
ずっと抑えつけられてる腕も感覚が麻痺しとって動かせるかも微妙やし…
卑猥な音しか聞こえん結合部ももう感覚が曖昧やった。
「なぁ、そろそろ時間やで」
「せやなー…今日はもう終わりにしよか」
ずる、と中から出ていくんが分かり、抑えられとった手や足も解放される。
それでもその場からなかなか動けんくて、先輩等が教室から出て行くのをただ見ているしか出来なかった。
…やっと終わる…
そう思いながら息を吐くといきなり髪の毛を掴まれ、無理矢理身体を起こされた。
目の前には先輩の顔が映し出される。
「なぁ、財前…俺等は前みたいにお前とヤれればええねんで?お前が誰かに本気になったりするから悪いんや…」
「…ッ…!!」
「なぁ…、そいつがおらんかったら…前みたいにヤらしてくれるんやろ……、誰なん…?」
先輩の鋭い目が俺の目を見つめ、その恐怖にガタガタと身体が震える。
「…ッ…俺は誰とも…付き合うてへん…!」
…付き合うてへん…
俺が勝手に想ってただけなんや…
でも…
それが原因で…
アンタが危険な目に合うんやったら…
…俺は…
「…そおか…まぁええわ、そんなん簡単に分かるからなぁ…、自力で探したるわ」
楽しげな笑みを浮かべ、先輩は俺の髪を乱暴に離すと、床に這いつくばる俺に優しい声色で別れを告げた。
「ほな…またな、財前…」
ドアがピシャリと閉じられ、俺は暗い教室に一人、冷たい床を眺めていて…
もうあの人と一緒に笑ったり出来んのや、と思うと心が冷たくなっていく。
ふと、遠くに投げられとったカバンから微かに音が聞こえて、俺はボロボロになった身体を引きずりながらカバンに手を入れた。
チカチカ光る携帯電話のディスプレイに映し出された名前…
これで最後…
もう二度と、かかってくる事はなくなってしまうんや…
俺は震える手で通話ボタンを押した。
『あ、もしもし?光?さっきから何回もかけとんのにどうして電話でえへんのやー、部活無断で休んで何してんねん、白石めっちゃ怒っとるでー!』
電話越しの声ですら俺の涙腺を緩めるには充分過ぎて…
もう枯れたと思っていた涙が頬を伝って地面に落ちていった。
『…光…?』
「…謙也さん」
『ん、何…?』
「話が…あるんやけど」
『話…?』
「もう部活終わりますよね、謙也さんちの近くの公園で待ってます」
『なんや、よお分からんけど…すぐ行くから…』
「……はい…」
電話を切り、急いで服を整える。
正直、まともに動ける程の体力なんて残ってへんし、身体の全てが痛い…
でも俺は行かなアカン
アイツらがアンタの存在に気付く前に
言わんとアカン事があんねん…
…大丈夫
怖いんは最初だけ…
何かを失う事に慣れてへんから…
怖いだけなんや…
俺は自分にそう言い聞かせ、シンと静まりかえった教室を後にした。
「光!遅くなってスマン!…何かあったんか…?」
夕日に照らされた静かな公園に、謙也さんの声だけが響く。
この時間やからかこの小さな公園には俺しかおらんくて、一直線に息を切らしながら走ってきた謙也さんは心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
こんな自分を、アンタの視界に入れる事すら罪悪感でいっぱいになる…
「話って何や?今日部活休んだ事と関係あるん?」
「………」
「光…?」
俯く俺の視界に謙也さんの手が伸びてくるのが見え、腕を捕まれる前にその手を振り払った。
パシッと乾いた音と共に、謙也さんが驚いたような顔をして…
俺は泣きたくなるんを必死に堪えた。
……お願いやから…
触らんで…
綺麗なアンタが…
汚れてしまう…
「…ひか」
「もう終わりや」
俺は謙也さんの目を見つめた。
その、優しい眼差しが今では不安そうに揺れていて。
唇が震える…
次の言葉を言おうとするのに、うまく喋れへん…
「…終わりって…何が…?」
「もう…アンタに抱かれるんは終わりってこと」
謙也さんは俺の言葉を聞いても何も言わずに、ずっと俺の顔を見つめてただその言葉の意味を考えているようやった。
「…今日…部活サボって何してたと思います…?」
「…え…?」
「セックス、してたんや」
謙也さんの顔は見れんかった。
出来る事ならその事実を消して、今までみたいに一緒におりたい…
………
…そんなん…無理やって分かっとるけど…
「……嘘やろ…?…やって…!」
肩を掴まれ、大きく揺すぶられる。
その振動で身体の至る所が痛くて思わず顔をしかめた。
「…ひかる…ッ!」
次の瞬間、謙也さんの視線がある一点で止まる。
俺の首もとに付けられた印を見た謙也さんは言葉を失って、いくつもいくつも付けられた跡を信じられないといった表情で見つめとって…
見られたない…
こんな…
アンタ以外の奴に抱かれた証なんて…
「…何や…これ…」
ゆっくりと俺から手を離し、謙也さんの表情が凍りつく。
俺は平静を装い、乱れた制服を直しながら座っていたベンチから腰を上げた。
「…俺、アンタから金取らんかったやろ?部活の先輩やから遠慮しとったんやけど…もうええ加減欲しいもんとかあるし…」
「…そんなん俺が…!」
「せやから、アンタが相手やとやりづらい言うとるやろ…!…ほな、もう帰りますわ」
そう言って謙也さんの横を通り抜けた時やった。
「光!」
後ろから大声で呼ばれ、俺は拳を握りしめた。
…止まったらアカン…
声を聞いたらアカン…
「…勘違いすんなとか思うかもしれんけど…、お前が俺に抱かれるんは…金とか関係ない違う理由やったんとちゃうの?俺はずっと光とおって毎日幸せやった!光も…同じ気持ちでいてくれとると思ってたんやで!」
その言葉は俺の足を止めるには充分過ぎて、謙也さんが俺の気持ちに少しでも気づいてくれた…、幸せやったと言ってくれたんがホンマに嬉しかった。
…でも
もう…決めたんや…
「…ホンマ、呆れますわ…、もう俺に構わんでください」
俺は謙也さんの顔すら見れずに、その場所から立ち去った。
後ろで謙也さんがどんな顔をしとるとか分からんけど、振り返ったらきっと…
今のは全部嘘やって、言ってしまうから…
もう失うのは嫌や…
こんな思いするぐらいなら
最初から何も持ってない方がマシや…
ごめんなさい…
約束守れなくてごめんなさい…
最初から気付くべきやったんや…
アンタは
綺麗すぎるから…
俺なんかと一緒におってええ人やない
俺なんかに笑いかけてええ人やない
謙也さん…
アンタの笑顔が好きです
俺の名前を呼ぶ声が好きです
俺を見つめる優しい目が好きです
ゆっくりと触れる暖かい手が好きです
謙也さん
アンタの全てが
めっちゃ好きです