Long

□★それが運命ならば
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俺達以外誰もいない視聴覚室で、光の唇に自分の唇を重ねる。




何度も感じたその感触は、いつまでも慣れる事なんかなくて…
触れる度にドキドキと胸が鳴り、それが心地良くもあった。


「…ん…、んんッ…」


光のくぐもった声が欲望を掻き立て、すぐ近くにある細い身体に手を這わせると、俺の手を阻むように光の手がそっと触れた。


「…ちょ、謙也さん…時間…」

「そんなのええから…光とシたい…」


光は少し驚いたような顔で俺を見て、抑えていた手をゆっくりと離す。
それを了承の合図とみて俺は制服の裾から手を入れ、体温の低い肌に直接触れた。


「…あ…ッ…」


向かい合ってた光を床に押し倒し、仰向けになった身体に覆い被さる。
肌蹴たシャツから覗く白い肌が目の前に現れ、制服のボタンを一つ一つ外していった。

ドクン…と、身体の中心に熱が集まるのが分かる…

光と視線を絡めて、外気に震える身体に唇を落とす。
その瞬間、授業の始まりを告げるチャイムが教室内に響いたが、そんなもの今の俺には全く気にならないほど夢中になりながらピンク色の突起を舐め上げた。


「…ッ…ん、は…ぁッ」

「…ひかる…」


何度もしつこく舌を這わせ、もう片方も指で押し潰したり引っ掻いたりと愛撫をおくる。
それだけで充分感じているのか、光のズボンを押し上げているそれを見て、俺は素早く手を延ばした。


「あぁッ…!や、アカン…!」

「何で?めっちゃかわええで…」

「ひぁッ、あ、んん…ッ…!」


ズボンと下着を脱がせて直に触れると、光は一際甘い声を上げる。
もっとその声が聞きたくて動かしている手のスピードを速めると、光は嫌だと首を振りながら手の甲を口に当てて声を押さえとった。

…そんな事してもあんまり意味ないんやけどな…

光の熱が限界まで高まるのを感じ、今まで動かしていた手を後ろに這わせる。
入り口を数回撫でると、光の身体は次にくる快感を待っているかのようにビクリと大きく震えた。


「う、ぁ…けん…や…さん…ッ」


無意識なのかは分からないが、光は俺にねだるような視線を向けて、俺のシャツの肩らへんをギュッと握り締める。

そんなんされて、当たり前に我慢なんて出来んくて…
俺は狭いそこに人差し指を突き立てた。


「や、あぁッ…!」


きつかった中も思ったよりすぐに解れて、だんだんと指の数を増やしていく。
最初から光の一番ええ所ばかり攻めて、いつもより性急に慣らしていった。


「光、挿れんで…」

「…ッ……」


光の息を飲む声を聞き、自分のを押し宛て腰を進める。
いくら慣らしてもきついもんはやっぱりきつくて…
圧迫感に耐える光の苦しそうな顔が目に入った。


「…う…あ、あぁッ…!」

「…もお…ちょおやから…」


そっと頬を撫でると少し落ち着いたのか力が抜け、俺は半分ぐらいまで入っていた自身を一気に奥まで挿れた。


「…ッ…や、あぁぁ…!」

「…は、アカン…」


光の中は熱くて、ギュッと絡み付いてきて…
挿れただけで意識を持っていかれそうになる。

光は荒く呼吸を繰り返して息を調えようとしていたが、俺はそれを待つ事なく腰を動かし始めた。

ぐちゅぐちゅと水音が結合部から聞こえ、それを掻き消すように光が声を荒げる。

既に限界が近いのだろう、光は自ら腰を動かし俺のをキツく締め付けた。
早く俺も限界まで上り詰めてくれと言わんばかりのその行為に、俺は自然と笑みを洩らす。


「ひかる…ッ…好きやで…」

「ん、あぁ…ッ…俺も…ッ好き…や…!」

「…ッ…!」


普段あまり言わないような台詞を光が言うから…
俺はどんどん高まっていく熱を抑える事が出来んかった。
もう何も考えずに奥を思いきり突いて、震える光の身体を抱き締めて…


「ひ…ッああぁ…!!」

「…く…ッ…!」


光が達したと同時に、俺も光の中に精を吐き出した。













「今日…どないしたん?」



情事後、シャツのボタンを止めながら、光は俺に訝しげな視線を向けた。

その質問は少なからず俺をドキリとさせる。


「…何が?」


光の質問の意味は分かってるのに、俺はそれを言う気にはなれんくて…
とぼけたフリをする。


「……言いたくないんやったら別にええけど」


光は完全に制服を着ると、床に座り込む俺の隣に腰を下ろした。


「いつもやったら絶対、シてもええ?って聞くやん…今日はシたいやったし…、なんやえっちも強引な気がしたから…何かあったんかな…思て」


俺の顔をまじまじと見つめた後、光は俺の肩に頭を預けて目を瞑った。


あぁ…
やっぱり光には分かってまうんやな…


そんな事を思いながら、隣で寝息を立て始めた恋人を見つめ、ふと、今朝の出来事を思い出した。







「明日、空けといてくれへんか?」



そう、オトンに言われたのは俺が朝食をとっている時やった。
その言葉に俺は、ついに来たか…と声には出さず心の中で呟いた。


「明日…?何かあるん?」

「ん、お前にな…紹介したい人がおるんや」


そう言ったオトンの顔は照れたような、でもどこか不安そうな顔をして…
そんな顔を見て俺は自然と笑顔になる。


「それってオトンの恋人…やろ?」

「…な…、何で…」

「最近なんや楽しそうやし、ええ人でもおるんかなって思っとったから」


空になった食器を下げ、俺は玄関に向かう。
座りながら靴を履いていると後ろからバタバタと足音が響いた。


「謙也…!」

「え、何やねん」


オトンは俺の様子を伺うみたいにジッと見つめ、そして恐る恐る口を開いた。


「…嫌や…ないんか…?」


普段しないような表情のオトンに、俺は微笑しながら立ち上がる。


「嫌な訳ないやん、オトンにはオトンの幸せがあるし、早よそれを見つけられて良かったって思っとる…、俺なんかに気使わんで好きにしたらええんやで」

「……謙也…」

「って、こんなんまともに言うてめっちゃハズいわ!行ってくるで!オトンも早よ病院行かな遅刻すんで!」


俺は笑顔を見せるオトンに見送られ玄関を飛び出した。


…あれからもう…1年も経つんやなぁ…


歩きながら俺は、胸に手を当てて深く息を吐く。
両親が別れてもうすぐ1年。
翔太はオカンと、俺はオトンと暮らしてるけど、今でもみんなと連絡とったりしとるし…
寂しいとか悲しいとかはもうあまり感じない。


少し前からオトンに恋人がいるのは知っとった。
離婚してしばらくは仕事で気を紛らわそうとしとったみたいで、家でも疲れた顔ばっかりしていた。
でも最近は笑顔だって見せるし、たまの休日も楽しそうにどこか出かけてたみたいやから…
俺はなんとなく、そんな人がおるんやないかって思ってたんや。
俺に会わせるぐらいなんやから、たぶん、再婚とか考えてるんやろ。
嫌だとか、そんな事は思わへん…
オトンがもう一度幸せを掴んでくれるなら俺だって嬉しい。

ただ、なんや複雑な気持ちなのは否定出来ん…

たぶん親に再婚するって言われた子供ってこんな気持ちなんやなって…
新しい家族が増えるのって緊張するんやなって…
俺の中でも少なからず不安になる事だってある。


せやから今日、光に…無意識にその気持ちをぶつけてしまったのかもしれない…


俺は横で小さな寝息を立てる光を見て微笑む。

俺の幸せはここにあるから…

それだけで俺は充分やから…

何があっても笑顔でいられるんや…


チャイムが鳴るまであと25分。
俺は光の手を握り、ゆっくりと目を閉じた。












次の日、俺はオトンに連れられ、駅前の喫茶店におった。


「…なぁ、どんな人なん?」


コップに入ったジュースをストローで吸い上げると、氷がカランと音を立てた。
オトンはさっきからそわそわしとってえらい緊張してるみたいや。

…普通逆やろ…
初めて会うんは俺なんやから、俺が緊張すんなら分かるんやけど…
オトンのこの態度を見てると、なんや緊張すんのが馬鹿らしくなり、俺は小さく息を吐いた。


「…どんな人…言われてもなぁ…」

「何かあるやろ?綺麗やーとか、優しそうとか…」

「せ、せやな…、綺麗で優しい人やで」


それ俺が言うたまんまやんけ…

もうこのガチガチなオトンからこれ以上の情報は聞き出せないと確信した俺は、店内の壁にかかった時計に目をやった。
約束の時間まで、後6分。

カチッと針が振れるのと同時に隣にいたオトンが入口に向かって手を上げるのを見て、つられるように視線を向ける。


「ごめんなさい…!遅れてしもた?」


息を切らしながら入って来たその人は…なんというか…オトンの言うた通りホンマに綺麗で優しそうな人やった。
何か…あれや、ふわふわしとるっちゅーか…
雰囲気が柔らかくて…

笑った顔がとても綺麗…で…


「………」


俺はその時、妙な違和感を感じた。


何を…、と言われてもはっきり答えられるものではない。
ただ、心にざわざわと押し寄せる何かを漠然と感じるだけ…


…何や…この感じ…


店の中は暑くも寒くもない丁度ええ温度やのに、俺は自分の額に浮かぶ汗を拭った。


「あの…初めまして、謙也くん…やんな?」


突然名前を呼ばれ、俺に向けられた視線が少し不安そうに揺れる。
今まで平静やった俺やけどやはり目の前にすると緊張してもうて、先程感じた違和感を無理矢理捨て去った。


「え…っ…あ、初めまして、忍足謙也です!」

「私、美月っていいます、謙也くんの事は宗也さんからいろいろ聞いてるんよ、思ってた通りの素敵な子やね」


そしてまた、この笑顔…。

ドクンドクン…と胸が鳴り響き、俺は無意識のうちに唇を噛み締める。


「謙也、もう一人会うて欲しい人がおるんや、…って言うても俺も会うんは初めてなんやけど…」


オトンがチラ、と美月さんに目配せをすると、美月さんはここから死角になっている店内の入口に歩いていった。


…もう…一人…?


誰かの腕を引っ張る美月さんは怒ったような顔をして隣にいるであろう人物に「何恥ずかしがってんの!」とか話しかけとって…

美月さんが俺達に顔を向けた時その人物も一緒に目の前に現れる。




「この子、私の息子なんよ、仲良くしたってな」





あぁ…

そおか…


この人の笑顔は


俺の大切な人の笑顔とそっくりなんや…





「挨拶もせんと何突っ立ってんの!…ごめんな、無愛想な子で…」






そう言われても、俺は…俺達はただお互いを見つめ合うしか出来なかった。

周りの音なんか一切聞こえず、まるで2人だけそこに置いて行かれてしまったかのように…


驚きに見開かれた漆黒の瞳が俺を映す。





俺にとって…

君と共に過ごしてきた時間はかけがえのない宝物


手を重ね、唇を重ね、想いを伝え合う瞬間は俺に幸せというものを感じさせてくれるんや



俺と君が出会えたのは…

運命やって思ってる






じゃあこれは?


これも運命…?





なぁ…


黙ってないで

なんとか言うてや…




…光…






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