mini

□ちょっと待ってて
1ページ/1ページ





買い物に疲れたから立ち寄った喫茶店で、彼女にちょっと待っていてと言われてからもう三十分はたつ。

席を立った彼女がどこへ向かったのか、はっきりとはわからないけど、たぶん電話を掛けにでも行ったのだろう。

いつものことだしって思って大人しく待ってるけど、正直もう限界が近い。

テーブルに飾られた造花を弄びながらぼんやりと彼女を待つ。

そういえば先週の火曜にデートした時もこんな風に待たされて(確かあの時は一時間弱だった)戻ってきた彼女に何してたのって聞いたら、乙女に詮索は無用よとかいうふざけた言葉が返ってきたのを思い出した。

詮索っていうか、一時間も放置されたら普通何があったか聞くだろ。

彼女には酷い浮気癖があって、凄いときはいっぺんに八人の男と付き合っていた。

あまりにも頻繁に浮気されればどんなに自信過剰な奴だって、空気の抜けた風船みたいに自信が萎んでいくのは当然で、まして俺は自分に自信なんてほとんどないから、彼女が他の男と一緒にいる現場を見たりするとあまりにも自分が情けなくてその場で舌を噛み切って死にたくなる。

浮気がバレて、俺に問い詰められる彼女はいつもケロっとした顔で
愛してるのはあなただけ
なんて腐った台詞を口にするもんだから、手がつけられない。
そして、その台詞を鵜呑みにしちまう俺自身にも手がつけられない。

ただ、やっぱりデートの合間に他の男と電話されたりすんのはちょっと辛いものがある。

俺と一緒にいる間くらい俺のことだけ考えてよなんて、口が裂けても言えないんだけど。

待たせてごめんねって言いながら彼女がこっちに近づいてくるのを認め、ウェイターに新しいコーヒーを頼む。
彼女が席を立つ前に注文したものはすっかり冷めてしまっていた。

それどうしたのと彼女に笑いながら指を差されて、自分が無意識に造花を握り潰していたことに気が付く。

そんなに待たせてたんだね、ごめんね。

そう言ってすまなそうに微笑む彼女を見て、例えその頭の中が俺以外の男のことでいっぱいでも、今俺にむかって微笑んでくれるならそれでいい、なんて思っちゃうくらい彼女に溺れてる俺は、やっぱり手がつけられない。





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ