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□過去拍手C
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…・・・ 片想いのテディ・ベア





携帯に、ストラップをつけた。

茶色で、首にピンク色のリボンをまいた、ふかふかのテディ・ベア。

「あ、携帯にストラップがついてる」

目ざとい女。
聞こえないフリをして、携帯をそっとラケットバッグにしまう。

「ね、見せてよ」

なおも無視したけど、しつこくしつこくねだるから、諦めてラケットバッグから携帯を出す。

ぷらん、と揺れたストラップのテディ・ベア。

「可愛いじゃん、珍しいね」

ニコニコ微笑む顔を見て、もう良いだろ、って言って携帯を取り上げた。

「あ、わたしも携帯にクマつけてるよ」

ぷらん、と現れたテディ・ベア。

焦げ茶色で、首には銀色のネームプレートのついた、ふかふかのストラップ。

プレートの裏には、アルファベットが一文字。

  『K』

「お揃いだね」

無責任に笑う顔を見て、何も言わずに背を向ける。

また明日ね、って背中から聞こえる声には返事をしない。

見えないように、小さくため息。



片想い、ひとりぼっちの、テディ・ベア。



次の日、携帯をポケットから出していじっていたら、少し残念そうな声が上から降ってきた。

「ストラップ、はずしちゃったの」

顔を上げれば、昨日のテディ・ベア。
焦げ茶色で、ぷらんと揺れる。

悪い?と聞けば、別に、と返ってくる残念そうな声。

「せっかくお揃いだったのに」

何も言わずにテディ・ベアを越えて、声の主を越えて、ずっと後ろを見る。

探してた人物。
楽しそうに、他の部員と話す男の携帯には、焦げ茶色で、首に銀色のネームプレートをつけたテディ・ベアがぷらん。

目を細めて見る。
今、目の前に居る女とお揃いのテディ・ベア。

「もう、つけないの?」

目の前に居る女を見上げ、少し笑ってから答える。

「もう、つけない」




君ならきっと、気付いてくれるとわかっててつけた、テディ・ベア。



残念そうに去って行く、焦げ茶色で、首に銀色のネームプレートをつけた、ふかふかのテディ・ベア。

Kで始まるあの男の名前がついた、彼女のテディ・ベア。



片想い、ひとりぼっちの、俺のテディ・ベア。





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