その他

□テスト明けの金曜日
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「んぁ〜〜〜〜終わった!!!」


アンリの一言に、いまの俺たち全員の気持ちがあった。


「うん、やっとって感じだな」
「いやー、相変わらずめんどくさかったぜ」
「おめーは特に勉強してねーだろ」
ごつっ
「あてっ。なにしやがる、このブラコンアンリちゃん」
「ブラコンゆーな。ちゃんつけんな」
大きく伸びをして愚痴ったシオンに拳骨かましたのはアンリだった。シオンは仕返しとばかりにアンリをからかう。
リュウと俺は呆れてその様子を見ている。いつもの光景だ。
「ミヅノはどーだった?」
「俺? まぁまぁかな。リュウは?」
「俺、今回しくったっぽい」
俺が聞き返すと、リュウは眉根をひそめて返してきた。
「へーめずらしいじゃん。リューちゃんでもそんなときってあるんだ?」
「よせよ、シオン」
頭の後ろで手を組みながら、シオンがいった。
「それにしても、シオン、おめーよく落第しねーな。ワイロでも渡してんのか?」
「へへー、内緒ー」
「キモイぞ、その顔」
「ミヅノはいつもキモイー」
「んだとこら、やんのか」
シオンがくるりと振り返りながらこういったので、俺はすっくと立ち上がり、拳を握った。
「やめろよ、二人とも。いまは結果待ちなんだから」
アンリが顔をしかめながら俺とシオンに言った。
シオンは肩をすくめて舌をぺろりと出し、俺は憤然としたまま座った。
「シオン、おまえは人をからかいすぎるな。ミヅノも、それを真に受け取るな」
「無理無理、だってオレ、口から先に生まれたかんじだし」「俺の短気はこいつ限定だ」
俺とシオンの口答えがハモった。
お互い、顔を見合わせる。
お互い、にやっと笑う。
アンリが、「おめーら、相変わらず相性いいな。なんでパートナーにならねんだ?」とかほざきやがったから、俺はアッパー、シオンは鳩尾に拳を喰らわせてやった。痛そうに腹を抱えている。ざまーみろ。
「てかみんな、オレが変化得意なの知ってるだろ。だから落ちないんだよ」
シオンがにやにやしながらしれっと言い放ったので、俺たちは全員揃って

「この天才が!!」

と言った。
シオンは、生まれつき魔術の才能がない。魔法使いに生まれたのにも関わらずだ。だが変わりに、変化の術はスクールで随一。高度な他者の変化もすでにできる。
一方リュウは生まれつきオールマイティ。変化ももちろん得意だが、当然シオンには敵わない。
アンリは、シオンの言うとおりブラコンである。いくつか上の兄貴にひっついて走り回っていたのがいまでも抜けていない。ただ、とっさの判断や危機回避能力はリュウをも上回る。
俺はというと、特に何もない。シオンとは相性がいいが、パートナーにはなりたいと思わない。俺やシオンは、リュウのように冷静な奴をパートナーにするべきだ。
そんなわけで、シオンを除く俺ら三人は、いつも学年末のテストでそれなりの点を取っていた。ちなみに、シオンは筆記のテストも駄目だ。それはただ勉強していないだけなのだが。
シオンは親と変化の術によって進学しているといえるだろう。羨ましい奴だ。
「ねーねー、ミヅノ。きいてんの? ねー?」
ずぉっとシオンの顔が近づいてくる。
「うおっ!? ちかよんな、ハゲ!」
「いや、はげてないだろ」
「いや、アンリ、いまの明らか勢いだったろ」
「え、まじで」
「うそいってどうする。シオンじゃあるまいし」
「あ、そうだな。シオンじゃあるまいし」
「みんなしてオレを馬鹿にすんなぁぁぁぁっ!!」
「あ、シオンが切れた」
アンリが冷静に言うと、シオンはできもしない魔術をアンリに向かってかけた。
「アクセラレート!!」
この術は、相手の頭を見えない手がたたくという、初等部でならう術だ。
まさか、シオンもかかると思っていまい。俺たちはそれでも小さいころからの付き合いだから、シオンに術をかけられたら何かしらの反応はする。
「いって!」
「なんだ、アンリ。ふつーの反応じゃん。オレちょっと期待してたのに」
シオンが唇を尖らせながら言うと、アンリが頭を抑えながらゆっくりとシオンの顔を見た。
「シオン、お前・・・魔術使えるようになったのか!?」

「・・・・・・・・は?」

俺もリュウもシオンも、ぽかんとした顔になった。
そしてすぐに笑い出した。
「アンリ、馬鹿いってんじゃねぇぞ! 魔術使えないのは、オレ自身百も承知だっての!」
「アンリ、反応がイマイチだったのはしょうがない」
「いやー、まあシオンよかったな。お前、魔術使えたらいまごろ変化で取った点もチャラになってたぞ」
「いや、オレ知っててやってるし?」
「よくいうなあ!」
俺たちは笑っていたが、アンリの顔はマジだった。
「・・・・・ほんとだよ。おれいま、頭たたかれた」
沈黙。
リュウみたいに点をすごくとってんならともかく、ギリギリもギリのシオンじゃ、いま一点でも減点されたら―――
『――シオン・イズラ。ただちに教務室へ来なさい』
呼び出しがかかった。
沈黙。
俺も、リュウも、アンリも、シオンも。
顔を見合わせて、さっと血の気をなくした。
「あ・・・なあ、アンリ。今日って、何日?」
リュウが突然聞いた。
「今日? 13、だろ」
アンリがシオンを凝視しながら言った。
「あ」
俺、気づく。
一拍遅れて、アンリも気づく。
シオンだけ、気づかない。気づけよ馬鹿野郎。
俺たち三人がまたハモる。


「13日の、金曜日」



シオンが、「あ」と呟いた。




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