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□傘を返しに
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「うわ」
朝、窓から外を見ると雨が降っていた。
一週間の始まりの日からついてないなぁ傘差して行かなくちゃって考えていると、ふと花柄で薄桃色の傘のことが頭をよぎった。
「…あ」
今の今まですっかり忘れてたけど、確か先週末に松本早紀がかしてくれた傘だ。
先週末…つまり金曜日も学校から帰ろうと昇降口を出た時に、酷い雨にあった。
少し待って止まなかったら、濡れて帰ろうと思っていたら後ろから名前を呼ばれた。
『青木くん?』
振り返ると、同じクラスの松本早紀がこっちを見ている。
『…松本じゃん』
同じクラスだけど全然話したことがなかったから、話し掛けられた時は正直焦った。
もとから女の子と仲良くするのは得意じゃない。
だからその時も、態度には出さなかったけど、早く帰ってくれないかなって思ってた。
『松本、帰んないの?』
『今から帰ろうと思ってたとこだよ』
『あ、そう』
松本は靴を履き替えて俺の隣に立つと、青木くんもしかして傘持ってないのと問い掛けてきた。
『うん』
『じゃあ、私の傘かしてあげるよ』
松本は、私の家は近所だからって言いながら俺に傘を差し出した。
花柄で薄桃色の傘。
『いや、良いよ、悪いし』
『いいってば。青木くん、家遠いんでしょ?風邪ひいたら大変だし、私は大丈夫だから』
松本は俺に傘を押し付けるようにして、そのままじゃあねと手を振って雨のなかに一歩踏み出す。
『待って』
気が付くと引き止めていた。
『俺が、松本をおくっていけばいいだろ』
なんて自分らしくないんだろう、と思いながら、傘を差して松本の隣に並ぶ。
『でも青木くん…』
『いいから』
早く案内してよ、家の場所知らないんだから。
そう言って急かすと松本は、ちょっと困った風に笑いながら歩き始めた。
『ありがと』
松本が言った通り、確かに家は近かった。
『うん』
『傘、差して帰ってね』
来週帰してくれれば良いよって言った後、松本はじゃあねと手を振る。
彼女が家に入るのを見届けてから、自分の家にむかって歩いて帰った。
そして、月曜…今朝も雨が降っている。
俺に傘を貸した彼女はどうやって学校に行くんだろう。
支度を終えた俺は、しばらく傘を見つめて考えた後、花柄で薄桃色の傘を掴むと、普段学校へ向かう時間よりもかなり早めに家を出た。
傘を返すついでにむかえに行こう。
そうすれば、俺も彼女も濡れなくて済む。
うん、そうしよう。
松本は何と言うだろうか。
またありがとって言って笑ってくれたらいいな。
女の子は苦手なはずなのに、どうしちゃったんだろう俺。
こんなこと思うなんて本当らしくない。
「行ってきます」
そう考えながら、俺は歩きだした。