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□きみとぼくとかみさま
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「あれ、松本」
昼休み、購買へ行く途中で大量の紙にまみれた松本早紀と出会った。
「あ、青木くん」
松本は、どうしたのこんなとこでって笑いかけてきたけど、こっちからしたらお前の方がどうしたのって感じだ。
「購買行く途中…松本は何してんの」
「ん、私?」
彼女は大量のプリント類を抱えて職員室から出てきたところだったらしい。
「私、倫理の授業係だからさ」
先週の自習の時のプリントを返しておいてって頼まれたの。
松本はそう言うと、俺に向かって首をかしげた。
「青木くんは購買行かないの?パンとか、なくなっちゃうよ」
いやいや、こんな状態で放って置けるわけないし。
ていうか女の子一人に荷物持たせちゃ駄目でしょ先生。
黙り込んだ俺を見て、松本は首をかしげる。
「いいよ、半分持つよ」
「え、いや、悪いよ」
「いいから」
半ば奪い取るようにして、彼女が抱えていたプリントを三分の二ほど抱えた。
「青木くん…」
「早く行かないと、昼休み終わっちゃうんだけど」
「うん、ありがと」
教室に向かって歩きだすと、ふと松本が呟いた。
「青木くん、神様っていると思う?」
「は?」
思わず間抜けな返事をしてしまった。
いきなりなんだ?
カミサマ?
もしかしてこいつ、キリスト教信者?
「ごめんね、急に変なこと聞いて。ただ、気になっただけなの」
気にしないでと言った彼女の声は、何となく沈んでいた。
何だか罪悪感。
いやいや、罪悪感なんて感じる必要性ないだろ俺。
そもそも女の子は苦手なはずなのに、何で松本の手伝いなんかしてるんだよ。
もう訳わかんねぇ。
神様とやらがいるなら、俺がどうしてこんな状況に陥ってしまったのかを説明してほしい。
むしろ、原点まで遡って女の子が苦手な理由を教えてほしい。
「カミサマねぇ」
無意識で口に出していた。
隣で彼女が反応するのがわかる。
「松本は、どう思うのさ」
逆に俺が尋ねると、彼女は少し考えてから言った。
「私は、いると思うなぁ。だって、さっき職員室の前で困ってたら青木くん助けてくれたじゃん。」
私あの時、一人でこんなに運ぶのは無理だから、神様どうか助けてくださいってお願いしてみたんだよね。
ちょっと笑いながら彼女が話し終えると、タイミングよく教室に着いた。
「着いたね」
「うん」
「じゃあ、これ置いたら一緒に購買行こう」
「…え?」
「手伝ってもらったお礼にパン奢るよ」
「いや、いいよ」
「いいから!」
松本に強引に急かされ、気付けば俺は彼女と一緒に階段を駆け降りていた。
「青木くん、何パン食べたい?」
「クリームパン」
「残ってるかなぁ」
息を切らせて辿り着いた購買には、売れ残ったパンがひとつ。
「あれ、今日は遅かったんだね」
顔馴染みになった購買のおばちゃんに声をかけられ、まぁねと答えて残ったパンを見る。
「クリームパン、ちょうど一個だけ残ってるよ」
運が良かったねと笑うおばちゃんの声を背に、俺と松本は階段を上った。
「松本」
「なに?」
「俺、神様信じるわ」