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□淡い淡い空模様
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好きな人が出来た。
たぶん、初恋。



小さい頃から女の子に興味が無かった僕は、周りの友達がだれが可愛いとかそういう話をしていてもさっぱり理解出来ない奴だった。
女の子なんてめんどくさいだけでしょ。
事実、同い年の女の子はみんな子供っぽい子ばっかりで、恋愛対象としてなんて見る影もないし。

なのに。

『市ヶ谷くん』
『あ、葛原さん』
『今日の放課後、委員会があるみたいだから忘れないでね』
『わかった』
『じゃあ、また後でね』
『うん』

葛原さんと出会ってから、僕は何だかおかしくなっちゃったのかもしれない。

女の子に興味なんてなかったのに、葛原さんの事が頭から離れない。
可愛いっていうより綺麗な人で、なんだか凄く落ち着いてて、しかも成績優秀の超優等生で。

僕は、そんな彼女に恋をした。

『市ヶ谷くん』
『あ、もう行く?』
『あと五分で始まるからね』

僕らの教室は四階。
委員会は二階の多目的教室でやるから、階段の上り下りが辛くて毎回泣きたくなる。

僕の隣を歩く葛原さんは、ずっとバドミントンをやっているからか呼吸一つ乱さずに、涼しげな顔で少し茶色い長めの髪を揺らしながら一段一段下りている。

委員会の間も隣に座ってる彼女のことばかり気になって、睫毛長いなとか色白いなとか少し俯いた横顔が可愛いなとか。
とにかく、何を話しあったかなんて僕の記憶には残らなかった。

『あー疲れた』
『市ヶ谷くん、ほとんど話聞いてなかったでしょ』
『え、何で知ってるの』
『あ、本当に聞いてなかったんだ』
『カマかけたの?葛原さんって意外とえげつない事するね』
『わかりやすい市ヶ谷くんが悪いんだよ』
『そうかな?』
『そうだよ』

そうやって楽しそうに笑う姿は、いたずらに僕の思いを募らせるばかりだよ。

『また階段かぁ』
『頑張れ市ヶ谷くん』
『はいはい…』
『市ヶ谷くんてさ、普段はぼーっとしてて忘れっぽいのに、委員会だけは忘れたことないよね』
『葛原さん今さらっと酷い事言ったね』
『いやいや、羨ましいよ』
『どこが』
『アタシなんて毎日何かと追い回されてばっかりで、ぼーっとしてる時間なんて許してもらえないもん』
『それ、あんまり良い事言ってないよね』
『あ、バレた?』
『葛原さん、えげつないなぁ』
『はいはい、ホラ、話してたらもう教室着いた』
『あー疲れた』
『二回目だね』

たどり着いた教室は、調度西日に照らされてセピア色に染まってて、葛原さんにはそれがとても似合ってて、まるで映画のワンシーンのようだ。

『ていうか夕日めっちゃ綺麗だし』
『わー本当だね…あ、上見て市ヶ谷くん』

葛原さんに言われて目をやった先には、ピンク色に染まった雲がぷかぷか浮いていた。

『ピンクだね』
『綺麗だね』

このまま時間がとまればいいのに、なんてセピア色の教室で思う僕も映画に出れるかな。

でも無常にも時間は流れ去り、淡いピンク色の雲もセピア色の教室もあっという間に夜の黒に染まり初めてしまった。

あぁ虚しい。

『綺麗だったね』
『うん』
『明日も見れたらいいね』
『うん』

市ヶ谷くんそればっかりって笑う葛原さんは、色白だから黒の中でもよく見えて、しかも綺麗だ。

『そうかな?』
『そうだよ』
『でも綺麗だなって思ってたよ』
『ぼーっとしてて見てなかったんじゃないの?』
『いやさすがにそれは無いよ』
『そっか、残念』
『葛原さんって本当にえげつない』
『そうかな』

今度は僕がそうだよって真似して言ってやったら笑われた。

あぁもうその笑顔は犯罪だってば。





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