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□さよならのむつかしさなら君から教わった
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最初に彼女と出会ったのはもうずっと前のこと。

生まれて初めて入院した俺は慣れない病院ですっかり迷ってしまい、どこが自分の戻るべき病室なのかわからなくなって途方に暮れていた。
その時に助けてくれたのが、彼女だった。



彼女が亡くなったと聞いて、最初に感じたのは酷い喪失感と、どうしようもない自己嫌悪。

葬式には行くべきだと言われたけど、俺にそんな資格はないと言って断った。

俺が入院してたのは一年前なのに、今でも鮮明に彼女と過ごした数ヶ月のことを思い出せる。
あの頃はわからなかったけど、今ではこんなに苦しいのは彼女のことが好きだったからだと心が訴えてくる。

あの時この気持ちに気付けてたら何か変わっただろうか、なんて思わないけど、気持ちを伝えられなかったことだけは酷く胸に突き刺さっているし、あの日、嘘でもいいから好きだと言って、と笑った彼女の顔が忘れられない。

俺はあんなに愛されていたのに、何か返すことが出来ていただろうか。
あんなに優しかった彼女を、大事に出来ていただろうか。
あの日、彼女にあんな顔をさせた俺を、許すことは出来ない。
今更この気持ちに気付いた俺を、許すことは出来ない。

だから葬式には行けない、なんて言うのは建前で、本当は葬式に行ってしまったら、もう二度と会うことが叶わないと嫌でも思わされてしまうから。
それが嫌だから行けないだけ。

俺が退院する日、行かないでって泣く彼女を宥めたのは俺なのに。
さよならは嫌だって泣く彼女を宥めたのは、俺なのに。

今では俺が、彼女に行かないでって縋っている。

まさか、さよならがこんなに早く来るとは思わなかったんだ。



さよならのむつかしさなら
君から教わった






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