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□お医者さん、ここがきりきりと痛むの
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『入るぞー』

俺はノックもせずに、1107と札の付いた病室のドアを開けた。

『くるみ…って、あ?』

病室の主…つまり入院患者である、俺が会いに来た人物は今まさに診察の時間だったらしく、上半身ほぼ裸の状態でベッドに座っていた。

『あ、遥』

診察を受けてる張本人よりも、俺のほうが慌てて飛び出す。

あーびっくりした。
…意外とグラマーなのな。
じゃなくて!

『あーもう』

ため息を吐くと同時に病室のドアが開く。

『あ、先生』
『こんにちは。診察終わったよ』

ありがとうございます、すいませんって頭を下げて病室の中を覗き込む。

『…くるみちゃーん』
『やぁ、遥くん』

彼女…くるみはニッコリ笑って手を振った。



『診察中なら診察中って言えよな』
『ノックしなかったのそっちでしょ』

俺がリンゴを剥いてるのを見ながら、さっきのことを思い出したらしいくるみはケラケラ笑いだした。

『そーだけど…』
『良いじゃん、わたしは気にしないよ』

お前が気にしなくても俺が気にすんのって言うと、遥ちゃんったら細かぁいって更に笑われた。

『ちゃん付けで呼ぶなよ。ただでさえ女みたいな名前なのに』
『そうかなぁ?可愛いじゃん、遥ちゃん』
『うるさいぞ木の実』
『木の実じゃないよ、くるみだよ』
『同じだろ』
『くるみは木の実だけど、わたしは木の実じゃないよ』
『はいはい』
『まぁ、遥が呼んでくれるなら名前なんて何でもいいよ』

そう言いながらくるみが笑う。
仕掛けてきたのは向こうなのに、結局いつも彼女に丸め込まれて終わるんだ。

その包容力はまじ半端ねぇよって小さく呟くと、剥いてあるリンゴを頬張りながらんーって言うまぬけな声が聞こえた。



『ていうかさ、今日の診察時間いつもと違ったよな?』

リンゴを食べおわったくるみに尋ねると、彼女はそうかなって言いながら俺を見た。

『違ったよ。俺の診察の終わった後は、たいていお前の診察も終わってるじゃん』
『たまたまじゃない?』
『たまたまって二週間も続くの?』
『わかんない』

くるみはそう言うと、またケラケラ笑いだした。



『せんせーい』

彼女の病室から俺の病室へ戻る途中で、彼女の担当医と会った。

『やぁ、どうしたの?』

院内でも美形で有名な佐々木先生は、実は凄腕の外科医らしい。
くるみに聞いて初めて知った。

『今日、アイツの診察時間すこし長くなかったですか?』

俺が尋ねると先生は少し困った風に笑って、本当は内緒なんだけどねって言った。

『遥くんはくるみちゃんの大事な人みたいだから、話しておこうかな』
『そんなこと無いですけど…』

俺が否定すると先生はくすりと笑い、小さい声で俺に告げた。

『くるみちゃん最近ね、体の調子が良くないんだって』
『え』
『ココがさ、熱くなって苦しくなるんだって』

そう言いながら先生は、自分の胸を人差し指でトントンと叩く。

『大丈夫なんですか?』

肺だろうか?俺は生まれつき肺がとても弱いから、喘息の軽い発作でも酷く苦しい。重い症状が出ると死ぬ危険性もあると医者に言われている。
だから、苦しさはよくわかる。

先生は優しく笑うと、さっき自分の胸を叩いた指を開いて俺に向けると、すれ違いざまにひっそりと言った。

───遥くん次第だよ。

肺、じゃないのか?
それはいったい、どういう意味なんだろう。



お医者さん、
ここがきりきりと痛むの






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