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□やさしい君が嫌いでした
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入院してから三ヶ月が経った。
いい加減に調子も良くなっただろうと思ってたけど、昨日の夜に発作を起こしてしまったから、まだしばらく病院生活になりそう。
喘息ってのは厄介でいけないと心底思った。

『くるみー』

彼女の病気について詳しくは知らない。
けど、何かとんでもないものを抱えてるんだってことはこの前何となく知った。
俺は聞いたりしないし、彼女も話したりしないから、本当のところはわからないけど。

『はるかー』

今日も来てくれたんだねって言う彼女は、相変わらず不健康そうな顔をしている。

『俺が来ないと暇だろ?』
『わかんないよ。遥、知り合ってから毎日来るもん』

来ない日がないと比べられないね

そう言ってくるみはケラケラ笑った。

『じゃあ明日は来ない』
『やだ』
『来てほしいんだろ?』
『うん』
『なら最初からそう言えよ』
『はぁい』

巨大な総合病院で彼女と知り合えたのは何かの縁だってことにして、俺は毎日この病室に来る。
年の近い入院患者は彼女くらいしか知らなかったし、彼女と一緒にいるのは凄く楽しいから。

『わかればよろしい』
『遥ちゃんが優しい人でよかったよ』
『だーから!ちゃん付けすんなよ』
『はいはい、遥ちゃんリンゴ食べたいなー』
『お前…』
『お前じゃないよくるみだよ』
『覚えとけよ』

いつか元気になったら仕返ししてやるって言いながらリンゴを剥き始めた俺を見てくるみはケラケラ笑った。

『遥はさ、本当に優しいよね』

すっかりリンゴを食べおわったくるみが、俺の目を見つめながら言った。
色素が薄くて茶色っぽい彼女の瞳に見つめられると、何かを見透かされているように感じて少し居心地が悪い。

『んなことねーよ』

照れ隠しと居心地の悪いのとで目を逸らしながら俺は言う。

『優しいよ、わたしには』
『勘違いじゃねーの』
『勘違いじゃないよ。自覚ないの?それ、天然のタラシと一緒で手に負えないね』
『なっ!』
『うそうそ、冗談』
『…お前』

くるみはケラケラ笑いながら、お前じゃないよくるみだよって言った。

『俺、お前にからかわれてばっかだなぁ』
『くるみだってば、そうかな?』
『無自覚かよ、タチ悪い』
『からかわれる方が悪いのかも』
『ひでー』
『どんまい遥ちゃん!』
『慰めてくれてありがとう木の実さん』
『くるみだよ』
『はいはい…じゃあそろそろ戻りますよ、また明日ね木の実さん』
『明日も来てくれるの?やっぱり遥は優しい』
『うるさい。またな、くるみ』
『ん。またね、遥』

ニコニコ笑う彼女に軽く手を振って、病室を後にする。



やさしい君が嫌いでした


この時は彼女の気持ちなんてわからなかったし、まさか彼女が俺が戻った後に泣いているなんて、夢にも思わなかったんだ。
それともわからなかったんじゃなくて、わかろうとしなかったのか。
いずれにしても、気付くのがあまりにも遅すぎた。





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