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□僕の人魚姫
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「人魚姫ってバカなんじゃないの」

隣から聞こえた声に手元の雑誌から目を上げて声の方を見ると、僕の彼女は童話の人魚姫を退屈そうにペラペラとめくっていた。

「どうして?」

これは面白いことになりそうだと直感して、雑誌を閉じ訪ねる。
彼女は童話から目を離さず、だってさぁ、と子供みたいな声を出した。

「王子さまを刺さなくちゃ自分が死ぬのに、刺さないで泡になるんだよ?有り得ない」

そんなことか。
僕からしてみれば、たかが童話にそこまでムキになる君の方が有り得ない。
なんて、言えないんだけど。

「自分は不幸でも、王子さまが幸せならそれで良いと思ったんでしょ?高尚な愛のカタチだよ」

僕がそう言うと、彼女はいやいやをするように頭を振った。

「アンタがそんなこと言うなんて気持ち悪い」

何て失礼な奴。
でも僕もそう思う。

「まぁ君には一生わかんないだろーね」

少し笑いながらそう言ってやると、彼女は当然、とでもいうように僕を見た。

「アタシはアンタを殺さなきゃ自分が死ぬってなったら、迷わずアンタを殺すから。ヨロシク」

その言葉に一瞬ポカンとして、それから吹き出した。
笑いだした僕を見て、今度は彼女がポカンとした顔をする。

「なに笑ってんの?」
「いや、何でもない」

一通り笑い終わって、息を整えながら言えば、彼女はふんと退屈気に鼻を鳴らして再び手元に視線を落とした。

しばらくニコニコしながらそれを見つめていると、突然彼女が何か素敵なことを思い付いたかのようにあー、と楽しそうな声を上げた。

「どーしたの?」
「買い物に行こう」

彼女は僕を見て笑うと呟いた。

「良いけど、急に何買うのさ?」

さっさと先に立って玄関へ向かってしまった彼女の背中に問い掛ける。

靴をはき終えた僕の可愛い彼女は、ニヤリと笑うと一言。

「サンマ食べたい」





僕は、君のそのまさに人間らしい軽くて安っぽい考え方をするところが愛しくてたまらない。

人魚姫を読んだからサンマが食べたい、だなんて!

サンマを食べおわったらデザートは決まりだな、なんて、少し卑猥なことを考えながら、せかす彼女の声に答えるようにして玄関を出た。





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