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□ふたりぼっち
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小さな工場、わずかな人、がらくたまみれ。
いつも曇ってばかりなのに、夕陽だけはとても綺麗に見える。
わたしとお兄ちゃんは、そんな町で暮らしている。
物心ついた時には、既に父親も母親もいなかった。
年の離れたお兄ちゃんだけが、わたしの家族。
お兄ちゃんは工場で働いている。
わたしはまだ義務教育の過程にあるから学校へ通っている。
本当は学校なんて行きたくない。
出来るならわたしだって働いて、少しでもお兄ちゃんを助けたいと思うのに、お兄ちゃんはわたしに学校へ行けと言う。
せっかく通えるのだから行かなくては勿体ない、と。
わたしとお兄ちゃんには“家”が無い。
つまり、雨風をしのいだり温かいご飯を食べる場所が無い。
寝床だけなら、このスラムにたくさんある。
わたしとお兄ちゃんは、一日が終わると寝床を探してスラムを歩く。
一日中曇っていて、月明かりも星明かりもないから、夜にスラムを歩くのは危険でもある。
しっかり繋いだお兄ちゃんの右手とわたしの左手だけが、頼りになる。
わたしの学校は、ちょうど夕陽の沈む頃に終わる。
わたしには他の子と違って帰るべき“家”がないから、お兄ちゃんが工場で仕事を終えるまで門のところで彼を待ち続ける。
お兄ちゃんは優しいから、あまりわたしを待たせないようにと、早めに仕事を切り上げて迎えに来てくれる。
その分お給料も減らされるから、わたしのことは大丈夫だから、働いてきてと言うんだけれど、お兄ちゃんはいつもわたしのことが一番大事だから、と笑って迎えに来てくれる。
その言葉が、いけないのだろうけど、とても嬉しい。
町の人たちや学校の先生、生徒がわたしたちきょうだいのことを変な奴だと言っているのは知っていた。
でも、わたしにはお兄ちゃんだけだし、お兄ちゃんにだってわたしだけだ。
ふたりぼっちのわたしたちは、きょうだいで支え合って生きていくしかない。
町の人たちや学校の先生、生徒は誰も助けてくれないから。
以前、学校である男の子に言われたことがある。
─オマエラきょうだいは“イブンシ”だ、早く出ていけ。母ちゃんが言ってた。
わたしには“イブンシ”の意味がわからなくて、お兄ちゃんに訊いた記憶がある。
でも、お兄ちゃんは誰に言われたの、と笑って、その後に気にしなくて良いんだよと言っただけで、“イブンシ”が何かは教えてくれなかった。