mini

□ジ・エンド
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家に帰ってきて、電気も点けず言葉もなく立ち尽くす。
大きく息を吐いて、鞄と鍵を床に叩きつけた。

うんざりすることばかりだ。
俺を見つめていた女の表情や周囲の視線が、思い出したくないのに、まるで焼き付けられたフィルムのようにジリジリと心に刺さる。

俺が何をしたって言うんだ。何も間違ってなんかない。

好きだと言われた。死ぬ程好きだと言われた。
だから簡単に人を好きだとか言うなと答えた。死ぬ程好きなら死んでみろと答えた。
それだけだ。

それだけなのに。



ジャケットを脱いだ時にちらりと覗いた左腕には、目盛りのようにリストカットの跡が並んでいた。
何ともなしに右手の平でなぞる。

ざらりとしたその感触に、吐き気がした。



みんな知らないから。
何も知らないからあんな目で俺を見られるんだ。

本気で好きだった人を失くしたことがないから、だから。



誰にも俺の気持ちなんかわからない。誰も俺を理解してくれない。
やっぱり、俺には君しか居ない。君しか居なかったのに。



白い壁にかけられたカレンダー。予定も印も書き込まれていないそれには、今日の日付に赤い丸が付けてある。
それ以外は真っ白なまま。



カレンダーに歩みよって、丸を指でなぞった。
するりと滑るその感触に、吐き気がする。

「今日で5年だ」

ポツリとこぼれた声は、まるで自分のものでは無いように、無機質だった。



5年経つのに、俺はまだ君を忘れられない。
君以外の人間を見られない。

5年前の自分を、殺してやりたい。
そうすれば今、君と一緒に居られただろうか。



あの日から一歩も前に進めない俺を君は怒るだろうか。それとも、あの日みたいにただ泣きじゃくるだけなのだろうか。



考えたってわからない。
君はもう居ない。



もう一度、君に会えるなら、俺は何だってするのに。



リセットボタンを押して、あの日に戻れたら。
いっそのこと、俺の存在そのものがリセットされたら。



「会いたい」





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