mini
□残酷な話
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あるところに神様がいました。
神様はアダムとイヴを創ってから長いこと世界を見てきました。
それはそれは長い間、気が遠くなるほど長い間、世界を見ていました。
ある日、神様は信仰されるのが嫌になったので信者たちを殺しあわせて減らしました。
ある日、神様は人が増えすぎたと思ったので天災を起こして数を減らしました。
ある日、神様は世界が汚れてきたので全てを消して最初から創り直そうと思い全世界のいのちを回収しました。
さて、綺麗になった。
神様はまっさらになった世界を見て、何から創ろうかと考えます。
石で出来た建物か、いつか絶滅してしまった一角の獣か、今までのいのちとは全く異なった見た目のいのちか。それともやっぱり、またアダムとイヴを創ろうか。
懐かしい友人、アダムとイヴのことを思い出していた神様は、そこでふと気付きました。
アダムとイヴは出ていってしまったから、今度はいなくなってしまわないいのちを創ろう。そうすれば淋しくもないし退屈もない。
さあ、それじゃあ、創ろうか。新しい世界、新しいいのち。
そこでふと、神様は気付きました。
以前いのちを創ってから、もう随分と時間がたっています。
神様が最後にいのちを創ってから、もう長いこと長いことたちます。
神様は、アダムとイヴが出ていってしまってとても悲しかったので、いのちを創るのをみずから拒んでいたのです。
アダムとイヴだけではありません。七色の小鳥も三つ頭の犬もへびの尾を持つ獅子も、神様が創ったいのちはみんなみんな出ていってしまったのです。
神様は、みずからいのちを創る方法を捨ててしまっていました。
いつかいなくなってしまうなら、もう創るのはやめようと、ずいぶんと昔、気のとおくなるほど昔に、捨ててしまっていたのでした。
ああ、こんなはずでは。
まっさらな世界。何もいない誰もいない、ひとりぼっちの世界で、神様は頭を抱えました。
間違いながらでも信じていてほしかった、増えすぎていたって人はいつか死んでしまうのだからかまわなかった、汚れたなら綺麗にする努力をすればよかった。
何も、みんなみんな消してしまうことはなかった。
友人も信者も一角の獣も石の建物もない世界で、神様は淋しい淋しいと泣きました。
ひとりぼっちは嫌だよぅ、ひとりぼっちは淋しいよぅと、泣きました。
けれど神様の泣き声は、誰にも何にも届きません。
だって、神様がぜんぶ消してしまったから。