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□たんぽぽの哲学
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「哲学的に考えてみよう」

君は真っ直ぐに私を見つめて言った。

「万物は流転する。不変なものなんてないはずなんだ。そうパルメンデスだって言っていただろう」

私は君の真剣そのものといった表情を見て、軽く肩をすくめておどけて見せた。

「つまり、例えるなら私と君の関係が変わっていくのも当然であり本来万物の在るべきカタチだってこと?」
「そう、その通り」

満足気に頷いた君から目をそらし、私は小さくつぶやく。よく、わからないわ、と。

「もっと簡単に話して」
「それじゃあさっきと同じだよ。僕達はもう、今日だけで何回もこの話をしているんだ」
「だから、あなたの話が難しすぎるのよ。もっと簡単に、話してみて」



開きっぱなしの窓から、たんぽぽの種がふわりふわりと舞い込んできた。
日曜日の午後の教室には、私と君しかいない。



「たんぽぽはさ」
「え?」

突然の言葉に反応出来ずに顔を上げると、君はさっきと打って変わってぼんやりとした表情で窓の外を見ている。

「たんぽぽは、種から芽を出してつぼみをつけて花を咲かせて、また種になってとんで行くよね」
「うん」
「僕も君も、たんぽぽと同じだよ」
「とべるってこと?」
「君が望めばね」



私が望めば。



それってとても素敵な話ねと笑えば、君は少し照れたように、これが精一杯の簡略化だよ、と言った。

「今度はわかった?」
「少し」

じゃあまた来週、続きをやろう。君はそう言い残して教室から出て行く。
日曜日の午後、私は君とこの誰もいない教室で哲学について勉強する。君が好きだと言うから、私にもその楽しさを教えてほしくてはじめたのだけど、今では哲学を熱く語る君を見るために、私はここへ来ている。



君の言うように、万物は流転していくのが本来の在るべき姿だと言うなら、私と君の関係も、いつか変わるのだろうか。
いつか、君の正面ではなくて隣が、私の居場所になる日がくるのだろうか。



どこか遠くで部活をしている男の子達の声が聞こえる。
舞い込んだたんぽぽの種は、どこへ行ったのだろう。





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