mini

□sickness
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幸せになるのなんて、そう難しいことじゃないと思う。
人を好きになるのは簡単で、恋人を作るのはもっと簡単だ。

自分がその人に“恋をしている”って思い込めばそれで良いんだから。



「また別れたの?」

友達の呆れたような感心したような声。
何度目になるかわからない会話。
いつも、同じ。

「んー、何か、好きじゃなかったみたいでさ」
「また、それ」

アタシの言葉に友達は軽くため息を吐くと、アイスティーを手元に引き寄せた。

「アンタ、それ何回目だよ」
「忘れた」
「…まあ、そんな別れ話は掃いて捨てる程持ってるもんね」

好きだと思い込むのは簡単。飽きたらその思い込みを改めればそれで解決。
これなら、傷付かないでらくに楽しく恋愛が出来る。

「仕方ないじゃん」
「まぁねー、それがアンタっていう人間だからね」

軽蔑されても平気。
アタシは楽しく生きる方法を知ってる。
それを実践してるだけだし。

女の子達の話している“片想いのドキドキ”とか“切ない”感情とか、馬鹿らしくて反吐がでる。
そんなの、自分が“恋してる”っていう自覚をするための材料でしかない。



人の気持ちなんて目に見えないんだからさ、結局は自分でどうなのか決めて良い訳でしょ?



「モテる女は羨ましいね…あ、あたしこれからバイトだから、じゃあね」
「ん」

伝票を持って席を立った友達に、お礼を言って手を振る。
店を出ながら携帯で電話をかける友達を見ながら、アタシは口元を歪めた。

バイト?嘘吐き。
アタシはあの女がこの後男と会うのを知っている。
その男がアタシの彼氏だった男だということも、知っている。

友達はアタシが知っていることを知らないのだろう。否、気付かれていないとでも思っているのだろう。
アタシがそれを知ったのは偶然で、その男が何人目の彼氏だったのかも覚えていないけど、とにかく愉快だったことだけは覚えている。

2人して、馬鹿みたい。

人間関係なんて砂上の城だ。目に見えない感情を汲み取るなんて、無理。
お互い不快にならない距離と、愛想笑いを保ってれば簡単にうまくやっていける。



この世の中、何もかも楽勝で馬鹿馬鹿しくて、本当にくだらない。



氷がとけて薄くなったレモンティーをすすりながら、次はどんな男と付き合おうかと、次はどんな女と友達になろうかと、アタシは思考を巡らした。

と、向かいの席に座っている大学生風の若い男と目があった。
にっこり会釈をすると、男は立ち上がって、アタシの前の席を指差した。

「ここ、良い?」
「モチロン。友達、帰っちゃって暇してたの」



…生きていくのって、本当に簡単。





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