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□わたしにだって
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ええ、あの女とわたしは正反対だったわ。

わたしが白い服を着ればあの女は黒い服を。
あの女が右へ行けばわたしは左へ。
わたしが泣けばあの女は笑う。
もちろん、その逆も。

とにかく正反対なわたしたちが同じ人を愛すなんて、誰も予想出来なかったでしょうね。

現に今、あなたは困惑した表情を浮かべているもの。
ああ、いいの、気にしないで頂戴。
正反対なわたしたちだもの。
予想出来なくたってしかたないわ。

話を戻しましょう。
そう、それで、わたしとあの女は同じ人を愛したの。

ただ、わたしたちって正反対だから。
服の好みも性格も。

わかりきってたことなのよね。
片方しか愛してもらえないってことぐらい。
もちろん、両方愛してもらえないってことも考えられたけど、その可能性は考えたくなかったわ。

正反対なわたしたちだもの。
片方が愛されて、片方は愛されない。
それが正しい形なのよ。

だけど、わたしたちはどちらも愛されない方の人間にはなりたくなかった。

これも当然よね。

愛されたくない人間なんていないもの。
いたとしても、わたしとあの女には当てはまらないわ。

まぁ、それで。
結果ははっきりと出たわけなのよ。

あの女は器用だから、慈しむような暖かい愛を与えられたけど、わたしは不器用だから、うまく伝えられなかったの。
わたしの、愛を。

わたしの方が深く愛していたわ。
言葉になんて出来ないくらい熱く深い愛情よ。
それなのに、

え?
ああ、ごめんなさい。
取り乱しちゃったわ。

ええ、話を続けましょう。
わたしは平気よ。
それより、あなた、顔色が悪いけど大丈夫なの?
他人のことより、自分の心配をしなくちゃ。

本当に大丈夫?
なら、続けるわよ?

あの女は愛を与え、愛を手に入れた。
わたしは愛を伝えられず、愛を手に入れることが出来なかった。

悔しかったわ。

でも仕方ないこと。
わたしたちは正反対だもの。
これで正しかったんだわ。

そう、それで、わたしはわたしなりに終わらせたつもりだったんだけど。
あの女はそうじゃなかったみたいで。

最後に会った時に、これはつまり今朝なんだけど、わたし、言われたのよ。
ちゃんと愛していたのかって。
あの女と正反対な役を演じるために、わざと愛していたなんて嘘を吐いたんじゃないのかって。

酷い話よね。
愛していたわ。
あの女なんかより、ずっと。

そう言ったのに、信じないものだから、わたし、仕方なく言ったのよ。
何なら今から証明しましょうかって。
そしたらあの女、わたしのことを馬鹿にしたような顔で見下ろして
やれるものならやってご覧なさい
って言い捨てたの。

だからわたし、ここへ来たのよ。
それが、あなたがわたしにたずねた理由。
わたしがどうしてここにいるのかの理由。

わたし、あなたに愛を伝えに来たの。

そんなに怯えた顔をしないでよ。
ただ、伝えにきただけ。
あなたをあの女から奪おうなんて思ってないわ。
大丈夫、安心して。

この包丁は何だ、ですって?
いやだわ、気が付いてるくせに。

言ったでしょ。

わたしとあの女は正反対。

あの女は、慈しむような暖かい愛。

だったら、わたしからあなたへ与える愛は…

あら、そう言えば、今朝はあの女、綺麗な青いワンピースを着ていたわ。

青の反対の色。

そうね、赤なんてどうかしら?

わたしに、似合うと思う?




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