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□鏡よ鏡
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鏡は嫌い。
光を反射して眩しいし、落としたらすぐ割れるし、私は自分の顔がそこまで好きじゃないし。
何より、鏡の中にはアイツがいるから。
私がアイツの存在に気が付いたのは小学校四年生の時。
トイレで手を洗っていた時に、ちらりと鏡を見たらアイツと目が合った。
その後も、アイツはちらちらと私の前に姿を現した。
しばらくは気にならなかった。
私と目が合うと、アイツはにやりと不愉快な笑みを浮かべる。
それだけならまだ我慢出来た。
でも、一昨日からアイツは、ついに鏡の中から私に話し掛けるようになったのだ。
『お前は私だ』
『私はお前と何も変わらない』
『アハハはははハハは』
『同じだよ、私もお前も』
『狂っている』
もう我慢の限界だった。
耐えられない。
そして今朝、私はついに今まで我慢してきた感情を、アイツにぶつけることにしたのだ。
洗面所の明かりをつける。
ゆっくりと鏡に目を向けると、アイツが私を見て歪んだ笑みを浮かべるのが見えた。
笑いたければ笑うがいい。
私が鏡の正面に立つと、アイツがまた喋りだしたが、私はそれには耳を傾けずに後ろに隠していた右手をゆっくりと持ち上げた。
アイツの顔が強ばる。
『…正気か』
私は答える代わりに右手を…包丁を握った右手を頭の横まで持ち上げる。
『馬鹿な』
アイツは青ざめた顔でまくし立てている。
『お前は私だ私が死ねばお前も死ぬお前も』
私は包丁を自分の頭に突き刺した。
赤い血飛沫が舞う。
頭の右側がひどく痛んだけれど、構わずにもう一度突き刺す。
今度は、さっきよりも深く。
『…か』
アイツが、
鏡の中のアイツが、
苦しげな声を上げながら頭から血を流していた。
あぁ、素晴らしい。
もっと苦しめばいい。
私は夢中になって何度も包丁を振り下ろす。
自分の頭に向かって。
そのたびに聞こえるアイツの悲鳴に、段々歯止めがきかなくなる。
ふと静かになった。
アイツの声も聞こえない。
鏡を見ると、アイツの代わりに真っ青な顔で自分の頭に包丁を突き刺している私がいた。
怖くなった。
死ぬ?
目の前が真っ暗になった。
急激に意識が薄れていく。
私が私の意識を手放す寸前に、
『お前は私だよ』
アイツの後が聞こえた気がした。