mini

□欲しいのは
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朝、通学途中の電車の中でいつも一緒になる男友達から誕生日おめでとうと言われた。

「昨日アイツに教えられたんだよ。『明日はあたしの親友の誕生日なんだから、ちゃんとおめでとう言いなさいよね』って。でも別に嫌々なんかじゃないぜ?本当におめでとな」

「そうなんだ、ありがとう」

学校に着いてからも、たくさんの友達におめでとうと言ってもらえた。
何人かはメールをくれていて、わたしは本当に幸せなんだなって改めて感じる…ハズだった。

「一緒に帰ろー」
「あれ、今日は彼氏と帰らないの?」
「親友の誕生日だからって言ってきたから良いの」
「アンタのそーゆーところが好き」
「知ってる」

友達と二人で他愛もない話をして駅まで歩く。
彼女とは反対の路線だから、ここでバイバイ。

「じゃあね」
「残り少ない誕生日、楽しめよー」

電車に揺られて帰宅したわたしは、メールが来てないか確かめるため携帯を開く。
問い合わせ結果0件と表示されるディスプレイを閉じて大きくため息を吐いた。

来るはずないじゃないか。



(学校辞めようと思って)
(…何で)
(俺は馬鹿だし人間関係とかめんどくせぇから)
(そっか)
(お前のことはめんどくせぇとか思ってないから、だから)

これからも友達でいてくれよ。



痛い、と思った。
思い出すたびに痛いと思う。
でもどこが痛いのかはいまいちわからなかった。

ずっとずっと好きで。けどあの人はわたしを親友と言ってくれていたから好きだと言えば関係は壊れてしまって。学校からいなくなってしまうから、尚更その関係を維持することは重要で。
結果、何も伝えられずに連絡が取れなくなってしまった。

馬鹿なのはあの人かそれとも、

誕生日にはいつも一番におめでとうを言ってくれた。
親友っていう立ち位置は、苦しい程近くて泣きたい程遠い。

連絡が取れなくなってからもうすぐ一年経つ。

例えあの時わたしたちの関係が壊れようとも、あの人を引き止めるべきだったのか、気持ちを伝えるべきだったのか、今となってはもうわからないけど、でも。



(誕生日おめでとー)



わたしが欲しいのは、たった一人からのおめでとうの一言だけ。
綺麗なプレゼントも友達からの最高の笑顔も恋人としてのポジションもいらない。

わたしが欲しいのは、



(おい)
(なにー?)
(誕生日おめでとー)
(…ありがとう)
(今年も、俺が一番?)
(うん)

アンタが、一番。





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