mini
□キラキラ星
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「星を見に行こう」
放課後の教室、他クラスの人や帰宅部組が集まってだらだら話していた時。
窓の外を見てた斉木くんが急に立ち上がって言ったその一言に、その場にいた全員がぽかんとした顔をした。
あたしも例外じゃなく、コイツはいきなり何を言いだすんだって思いながら立ち上がった彼をぼんやり見上げた。
「星を見に行こう」
斉木くんは同じことをもう一度繰り返して言うと、ぐるりとあたしたちを見渡した。
今日はちょっと、って渋る顔のみんなを見てたあたしも同じく立ち上がった。
「いーじゃん。行こうよ」
斉木くんが最初に立ち上がった時と同じくらいぽかんとした顔で、今度はあたしが見上げられる。
成る程さっきの斉木くんはこんな気分だったのかって妙に納得してたら勢い良く右腕を捕まれた。
「俺と香山は行くけど、他に行く奴は?」
半ば引き摺られるようにして斉木くんの隣に立たされたあたしは他のみんながまだぽかんとしてるのを見てこりゃ駄目だと確信した。
何も言わないみんなを一瞥して、斉木くんは無言で教室を出ていった。
勿論あたしの右腕を掴んだまま。
「珍しいね、斉木くんが何か提案するなんて」
引き摺られながら話し掛けると不思議そうな目で見られた。
「そんなことないでしょ」
「いや、あたし斉木くんが相槌の他に何か言うのを聞いたのこれで三回目くらいだよ」
嘘だあって言われたけど本当だから。
いつも人の話を聞いてばかりで流され役の彼が自分から動くなんて、今までほとんど無かった。
お手洗いに行った時と先生に呼ばれた時の二回と、今回の三回目。
ほら、やっぱり三回目。
「その数少ない提案につきあう香山は変な奴だな」
「何でよ。数少ない提案だからこそ興味深いんじゃない」
あたしの言葉に斉木くんは一瞬考えた後に頷いた。
「あー、そういう思考回路ね」
「今少し馬鹿にしたでしょ」
「まさか」
校舎を出たあたしたちは駅から電車で小一時間の小さな天文台へ向かった。
その間、斉木くんはあたしの腕を掴みっぱなし。
やっと着いた時にはちょうど夕暮れで、あと少し待てば星が見えるっていうジャストタイミング。
あたしと斉木くんはこれまた小さな山の上にある小さな天文台の外でぼんやり夕焼けを見てた。
「ねぇ斉木くん」
夕焼けを見たまま話し掛けたら同じく夕焼けを見たまま何って返事が来た。
「いつまで腕掴んでんの」
「腕?」
まるで今生まれて初めて気が付いたって感じで斉木くんはあたしの腕を掴む自分の手を見た。
「ごめん、すっかり忘れてた」
謝りながら離したその手があったところに風が触れて少し鳥肌が立つ。
「いーよ、別に」
いつの間にかすっかり落ちた日に、二人で真上を見上げたら小さな星たちが光り始めたところだった。
「わりと少ないね」
「まだ太陽の光が残ってるから。もう少ししたらもっとたくさん見えるよ」
「ふーん」
特に会話もなく、ぼんやり夜空を見上げているあたしたちは端から見たら何に見えるんだろう。
何にしても滑稽だろうな、なんて考えてたら、斉木くんがまたあたしの腕を掴んで空を指差した。
「あれ見て」
彼の指を追って見た先には、周りの星より一際明るい三つの星が。
「あれが夏の大三角だよ」
「へぇ」
斉木くんの言葉通り、輝く三つを繋ぐと大きな三角形になる。
凄いねって言おうと思って見た斉木くんの横顔が、あまりにもキラキラしてるものだから話し掛けられなくて見つめてしまった。
「あれが見たかったの?」
あたしの問い掛けにも答えないで、彼は一心に三角を見つめている。
もう一度空へ目を向けて大三角を見る。
大きな三角形の他にも、さっきまでは見えなかった小さな星がたくさん輝いている。
都心から少し離れただけで、こんなにもたくさん見えるなんて。
零れそうなくらい輝く星々を見て、あたしは呟く。
「綺麗だね」
言わなくても通じてるよ、とでもいうように、あたしの腕を握る力がほんの少しだけ強くなった。