嬉しいことがあった日も、嫌なことがあった日も、わたしは音楽を聴く。
お気に入りの真っ白いヘッドフォンを付けて、大好きな音楽を聴く。
ヘッドフォンさえ付けてしまえば、もうこっちのモノ。
周りの音なんて届かない、そこはわたしだけの世界。
──もう、無理みたいだ。
目を閉じれば甦るあなたの苦しそうな顔。
その顔は、罪の意識で歪んでいる。
違う、違うの。
あなたは悪くない。
そんな顔しないで。
目を開けて、軽く頭を振って追い出す。
ボリュームを少し上げて、もっと沈もうと耳を澄ます。
──約束、守れなくてごめん。
やめて、もう何も言わないで。
約束なんてもういいの。
あなたを繋ぎ止めるだけの口実なんだから。
忘れて、お願いだから。
耳に響くのは、あなたが好きだと笑った曲。
少しでも近付きたくて、わたしも好きだと嘘をついた。
本当は嫌いよ、こんな悲しい曲。
流れてくるのは切ない歌詞ばかり、なのにメロディーは明るくアップテンポで、余計苦しくなるもの。
──いつだって、君を想っているよ。
どうしてそんなに優しくするの。
わたしには、あなたに優しくすることも、あなたを冷たく突き放すことも出来ないのに。
あなたを苦しめているのは、わたしなのに。
リピートボタンを押して、もう一度耳を澄ます。
あなたの好きだと笑ったこの曲。
わたしと、同じ。
あなたは好きだと笑ったけれど、その言葉が本当だったかどうかなんて、わからない。
いつも笑って好きだと言ってくれたけど、わたしはそれに答える言葉を知らなかった。
馬鹿なわたし。
目を閉じて、耳を澄まして、あなたを思いながらリズムにのる。
せめて、この曲を好きだと笑ったあの笑顔だけは、本心からであってほしい。
わたしを好きだと言ったあの言葉も、苦しそうな顔も、全て嘘でいいから。
どうか、この曲だけは。
──幸せになって。
最後まで言えなかった言葉。
このメロディーにのせて、どうかあなたへ。
「愛していたわ」