mini
□追君月行
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そっちはどう?
寒くない?何か悲しいことや、不安なことはない?
それとも君のことだから、元気にやってんのかな。
こっちはさ、何も変わんないよ。
君が居ようが居まいが、地球は変わらず回るんだな。
突然だけど俺、月に行くことにしたんだ。
びっくりした?
だとしたら大成功。
君との結婚費用とか、引っ越す予定だったマンション買うための費用とか、全部そっちに回して。
宇宙旅行に行くんだ。
黄金色の月面に立って地球を見んの。
きっとすげー綺麗だよ。
唯一残念なのは、君と一緒に見れないことかな。
君が居ない地球はさ、何にも変わらず回るのに、俺ひとりだけ時が止まったみたいでさ。
君と二人で住んでた、せまっ苦しいワンルームのマンションから引っ越せないんだ、俺。
君との思い出を捨てられなくて。
俺、本当に駄目な奴でさ。
君が居ないと、料理も出来ないし電子レンジも洗濯機もうまく使えなくて。
信じられないんだよ、君が死んだなんて。
いつかさ、君、言ったよね。
月に行きたいって。
俺、思うんだよ。
君は死んだんじゃなくて、月に行ったんだって。
だから俺、君を探しに行くんだ。
月まで。
だってさ、おかしいじゃん。
何で俺みたいに電子レンジも使えないクソみたいな男が生きてて、君みたいに素直で綺麗で美人な人が死ななくちゃいけないの?
何でさ、俺を置いて行ったの?
笑い方もさ、忘れちゃったんだ。
涙しか出てこなくて。
君が俺の笑顔も一緒に、月まで持っていっちまったんだよ。
だから俺、君と笑顔を返してもらいに行くよ。
もし、もしさ。
君が月に居なくてもさ。
きっと君は、宇宙をふわふわ泳いでるんだろうからさ。
俺、いちにのさん、で力いっぱいジャンプしてさ。
君を追い掛けて、宇宙を泳ぐよ。
大丈夫、きっと見つけられる。
君の居ない地球になんか帰らないで、君を探すから。
だからさ、もし、俺を見つけたらさ、いつもみたいに笑ってくれよ。
そしたら俺もさ、いつもみたいに笑って君を抱き締めるから。
ね、良い考えだろ?
待っていて、会いに行くから。
君を連れ戻しに、行くから。