捧げ物

□Winter Days《乾海》
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《乾海編》


肌寒さに目を覚まし、海堂は寝室である和室の襖を開けて窓際へと足を向ける。

カーテンを開けるとそこには一面を覆う、美しい銀世界が広がっていた。


「雪か…。凄ぇな」


ぽつりとつぶやいた後、しかしこれでは日課のランニングが出来ない、と少し苛立つ。

でも頑張れば出来るかも、と思い、着替えようとすると、いきなり携帯が着信を知らせる音楽を奏でた。

ただ一人の人からの音楽を。


「はい、」

『もしもし、海堂?』

「ッス」

『おはよう』

「おはようございます」

『雪、積もったな』

「はぁ」


淡々と言葉を紡がれて、海堂はただ相槌を打つしかできない。
一体何の用があってこんなに朝早くから乾は電話を掛けてきたのだろう。


『海堂、お前、こんな雪が積もってる中でランニングに行こうとしてないよな?』

「っ、」


鋭い。

今まさにそうしようとしていたところでのその乾の言葉はどれだけタイミングが良いのだ。
まさかどこかから見ているのでは…、とありもしないことを考える。


『行くつもりだったんだな…。まったくお前ってやつは…』


はぁ、とため息が聞こえてきて、海堂は小さく肩をびく、と跳ねさせた。


「すんません…」

『ん、反省してるようなら良いよ。』


優しい、いつもの声色に海堂はほっと胸を撫で下ろす。


『ところで…』


乾が話の方向を変えてきて、途中で言いかけるから、何スか?と聞くと、海堂今日何か用事ある?と聞かれ、特に何もないことを告げれば、


『じゃあ、一緒にトレーニングしようか』


今さっきランニングするなと言ったその口での誘いに海堂は驚く。


「でもさっき駄目だって…」

『うん、俺が見てないところではね』

「は?」

『とにかく、着替えていつもの公園に10時な』

「はぁ」

『じゃあまた後で』

「ッス」


一体何なんだ…と思いながら電源ボタンを押す。
いきなり電話してきて、ランニングは駄目だと言いながら、一緒にトレーニングしようだなんて。

でも、なんだかんだ心の中で悪態を吐いてみても、やっぱりトレーニングできるのは嬉しい。


何より、乾と一緒にやる、というのがここのところ乾の受験勉強のためにご無沙汰だったから、より嬉しいのかもしれない。



そんなことを思った自分に恥ずかしくなりながら、海堂はいそいそと着替え始めた。



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