物語

□赤彦の過去
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なぁ、俺ってなんだ?

んだその質問は…

いや、なんか思った…俺って必要なのかなって

当たり前だろ…お前は―














「赤彦…起きろって…」

「えっ…?」

利玄の声で目覚めた俺はふと考えた。
なんの夢見てたんだっけ?

「…ぃかげ…に」

「は?」

「いい加減にしろっ!!」

利玄の顔を見やった瞬間鈍い衝撃を受けた。
ゴッという音と共に頭に激痛が走る。

「いってぇぇぇ!!なっ何すんだよ!!人がきもちよく寝てれば!!」

「もう昼だっつの…起きないお前が悪い。」

「だからって頭突きはないだろ!!」

「ふん」

利玄は機嫌悪そうにそっぽを向く。
俺はまだ痛む頭を前足で擦ると立ち上がって伸びをした。

「俺…ちょっと出かけてくるよ。…聞いてる?」

「わーったよ」

利玄の素っ気ない返事を聞くと俺はある場所へ足を運んだ。





森を突き抜けた辺りが俺の最後の場所。黒鳥一族の滅亡の地。

俺をのぞいて、すべての仲間
家族を失った場所。

もう誰もいないその場所だけが俺の故郷だ。









昔この場所でデスコールの制裁を受け…立ち向かい…
死んでいった仲間達がいた。










事件はその日の朝おきた。

わあああぁぁぁ!!


誰かの悲鳴が響いた。
俺がついた時居たのは
青い狼と俺の兄貴にあたるアルバ。
アルバは群れの後継者になるただ一人の狼だった。だが―

前足を食いちぎられ首から大量の出血をし脇腹から腸が飛び出していた。

「来るな!!逃げろ赤彦!!」

立ち上がることすらできないアルバはそれだけ叫ぶと何かの糸が切れたかのように突っ伏した。

「兄ちゃん!!」

俺が駆け寄ろうとすると青い狼はアルバの千切れた前足を笑いながらくわえると俺に投げつけてきた。

ボトッと落ちたそれは俺の怒りを満たすのに充分すぎた。


「動くな…大事な兄ちゃんが死ぬぜ…?」

青い狼は俺が動こうと身構えると気を失っているアルバの腸をくわえゆっくりと引きずり出した。
ずるずると出ていく腸。
「うっ…!?ああああぁぁ!!」
気を失っていたアルバは痛みによって無理矢理目をさました。

「やめて!!兄ちゃんを殺さないで!!」

俺の必死の懇願を少しは聞き入れたのか青い狼は動きを止める


「きっ…貴様…ぅぁっ!!」
アルバの悲鳴が響く。
騒ぎを聞き付けた仲間達が来たとき瀕死のアルバと俺。
去っていく青い狼の姿。

群れの長凱が悲痛な叫びを上げた

「アルバ!!アルバ!!しっかりしてくれ…俺がわかるか!?」

「と…おさん…俺が…弱いばっかりに…赤彦が…」

「バカ野郎自分の心配をしてくれ!!なんて姿に…ぁぁぁ…」

凱の父の嗚咽が響く。

俺は狂ったように引きずり出された腸を舐めていた。頭のなかは真っ白。
何を考えたのか傷の手当てをとはみ出た腸を舐め続けていた。


アルバの傷は致命傷だった。出血は止まることなく命は幾ばくもないだろう。

凱は呻いた…
皆殺しにすると…


アルバは皆の必死の励ましに答えるように頭を持ち上げ俺の頭をいとおしいように優しくなめた。

「ごめん…赤彦…俺はもう…」

「うるさい!!諦めるなんて許さないからな!!兄ちゃん生きろ!!死んじゃダメだ!!」

その言葉が胸に突き刺さったのか涙するアルバ。

しかしアルバが話せたのはここまでだった…

突然痙攣を起こし呼吸が浅く早くなった。

「兄ちゃん!!」

「アルバ!!」

俺は泣きじゃくった。
そして神に願った。アルバを救ってくれと助けてくれと

その願いもむなしく
アルバは目を見開いたまま…絶命した。
瞳孔がみるみる開いていき血も止まった…
命の炎は消えた。

「赤彦…」

凱の震える声は届かなかった。

ショックという言葉では足りないほど俺の悲しみは深かった。

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