血濡れた月の、輝く夜に
□第1話、
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体中に纏わりつく甘い血の香りは己自身から放たれるもので、少年はただ悔しげに唇を噛み締めた。
…ポタポタと指先から伝い落ちる雫石は、間違いなく自分の居場所を"彼"に明確に伝えてしまうだろう。
出来るだけ早く…出来るだけ遠くに逃げなければならないのに
この体で、これ以上逃げ切れるとは到底思えなかった。
「…ッ、く」
ぐらりと視界が揺れた瞬間、体の重心がずれ少年はそのまま倒れるように霧雨に濡れる地面へ落ち、泥水がその髪と頬を汚した。
かろうじて無事な左腕に力を込めてやっとの思いで起き上がるけれど疲れ切った体は言うことを聞いてくれず、彼は壁に背を預けたまま血にまみれた右腕にそっと手を触れる。
「…っ」
もう感覚すら残らない腕に、どうしようもないほどの悔しさが心を支配した。
(相手はたかが人間なのに…!)
そう、相手はただの人間なのだ。
自分よりも"弱い"…そのはずだった。
…なのに。…なのに!!
「…鬼ごっこはもうおしまい?」
闇に紛れ響き渡る柔らかな声に悪寒にも似た冷たいものが少年の背中を走る。
「…あ…」
息を飲んだ少年の瞳に映るのは ベールのような雲の隙間から差す月光に照らされて…ゆっくりと姿を現す一人の男。
「…もう少し遊べると思っていたんだけど?」
ふわりと微笑む口元に、慈愛に満ちた蒼の瞳。
けれどその細く白い手に握られているのは紅(くれない)の装飾が施された美しい銃。
「…何、で」
「追われる理由なんて、いくらでも思いあたるでしょう?」
少年の問いに、にこりと微笑み 首を傾げた男の柔らかな金髪が揺れる。
「…ハンター…」
「…んー、少し違うねぇ」
"残念でした…" 笑みを含んだ声がそう囁いた瞬間、鋭い発砲音と共に左足に走った強い痛みに少年は思わず膝を付いた。