血濡れた月の、輝く夜に

□第1話、
3ページ/3ページ

「痛いかい? 可哀想に…」
「…ッ」

崩れ落ちた彼を見下ろしながらゆっくりと近付いてくる男を睨み付けた瞬間、その手が少年の喉元を捕えた。

「…ぁ、…っく」

少年の白い首をぎりぎりと締め付ける掌に、その表情は歪み唇からは苦しげな吐息が漏れた。

「…正解を教えてあげる。オレはこの街の教会の人間だよ」
「きょう…か…」

喘ぐような少年の声に、男は楽しげに言葉を続ける。

「今日はね、危険な"バンパイア"のお掃除に来たんだ」


『バンパイア』…人の血を糧に生きる呪われた種族。
古より、人と争い続けた人にとっての最も忌むべき魔物である。
ハンターと呼ばれる退治屋すら存在する危険な存在。


「僕を…殺…」
「さないよ」

その言葉に少年の目が驚きに見開かれた。

人に見つかった吸血鬼は殺される運命だ。
吸血鬼に見つかった人もまた同じ。
相手に抗う力が残っていないのならば尚更である。

けれど、男は少年の表情に満足そうに微笑むと、銃をホルダーへ収め その指先はまるで労るかのように少年の頬を辿る。

「ふぅん…。銀髪ってのは珍しいけど、"両の紅い瞳" 間違いない…か」

困惑の色に揺れる血のよりも紅い瞳を確認するかのように呟き、男は愛おしげにその蒼の瞳を細めた。

「…捕まえた…」

耳元へと囁かれる、甘い睦言のような柔らかい声に少年の意識が堕ちて行く。

「君は、オレの"モノ"になるんだよ――…」


闇の底へ
運命の始まりへ


ただ静かに輝く月だけが

宿命に捕われた哀れな吸血鬼の姿を映していた…―――


前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ