作品庫

□闇夜譚―やみよばなし―
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傍らに眠る男の顔を眺めながら夜鷹は髪を梳る。
二十四文の安銭で身を売る女の長い髪。
とき解した髪は男の腕にうねうねと続き、小指の付け根に絡まりける。

好いてはもらえぬ非道な男に、惚れた手前が悪いのか。
どうにも胸が妬けるようだよ。

綺麗な寝顔に恨み言。
言うても仕様があるまいが。

こなさんのものになれぬなら、
せめてその指を下さんせ。

巻き付く髪は指の肉に食い込んで、ぎりぎりと力一杯締め上げる。
痛みに目を醒ます男。
咄嗟に枕元の刀で髪を振り払う。
ぱっと散らばる黒い髪。
しかし力は弛むどころかいや益して、遂に指は筵に転がった。
刀を投げ捨て押さえた手から滴り落ちる血、
藍微塵の着物の裾を点々と黒く濡らして染め拡がる。

お前、何故…。

問い掛けるは擦れ声。
女、含み笑いに答えける。

恋に堕ちれば 目明きも盲目。
有るか無きかの疑心に囚われ、
女は鬼になるわいな。

さすれば、俺が鬼にしたと…。

そんなこと 思っちゃいねえわ。
ただ、

愛しよの。血の一雫までお前のことが。

うっとりと言い置きつ跪き、
落ちた指を拾い上げ、口接ける様は人ならざる凄まじさ。
恐ろしさに慄っと震え、再び刀を奮おうとも、
誰も咎めは出来ますまい。
風もどこか生臭いような。
今宵は魔の出る、闇夜にござい。

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