倉庫 GC

□あなたが子供だった頃
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2029年、10月。
日本がまだ日本だった頃、ローワンはこの国を訪れたことがあった。
秋の盛りの一週間。東京に住む親戚の家に転がり込んでの観光旅行。
都内の観光地は粗方回り、明日で帰国というその日、彼は公園で昼食を済ませ一息をついていた。
ベンチの背に両腕を乗せ、溜まった疲れを吐き出すように長々と息を吐く。
天を仰げばうろこ雲が、天高く延びるビルの隙間からちらほらと覗いている。

「狭い空だな」

本国の空を思い出し、虚しく独り言つ。
涼やかな風と午後の日差しは、満たされた腹と相俟って程好い眠気を誘う。
それを振り払わんとし、彼は上体を起こして背筋をぐっと伸ばす。
そのとき、ふと視界に面白いものを捉えた。
数メートル先の木の下で、子供がぴょんぴょんと跳び跳ねている。
この国ではそんな遊びが流行っているのかと、ついついそちらに見入ってしまう。
子供はそんな彼の視線に気付かぬまま、何度もジャンプを繰り返す。右手を伸ばし、一番低い枝を掴もうと必死な様子だ。
その手がようやく枝を掴み、子供の顔がぱっと晴れる。
直後、枝は子供の体重に耐えきれずに折れた。
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