倉庫 GC
□ごみ箱
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ダリルを犬にしようと思ったけどありきたりだから没にした話
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3月は花の金曜日、定時で帰宅の途についたローワンは、コンビニ弁当を片手に薄暗い路地を歩いていた。
人気のない夜の住宅街には、遠くを走る自動車の音と、擦れて鳴るビニール袋の音が響くばかりだ。
その中に聞き慣れない音を見付け、彼はぴたりと足を止めた。
キャンキャンと吠える、それは犬の鳴き声だ。
この辺りで犬の鳴き声を聞くのは初めてのことだった。
誰ぞ飼い始めたのかと、ローワンは興味本意で鳴き声のする方へ歩き出した。
しばらく進んだ彼が行き着いたのは、特定の誰かの家ではなかった。
そこはだだっ広い駐車場。
数えるほどしかない車の影に、鳴き声の主はいた。
「……子犬?」
小さい体を震わせ、子犬はローワンを睨んでギャンギャンと吠えた。
「野良か?」
見たところ首輪はない。
人に慣れてもいないらしい。
試しに手を伸ばしてみると、子犬は姿勢を低くして更にギャンギャンと吠えた。
「おいで。そんなところにいると保健所に連れて行かれるぞ」
言葉を解すはずもなく、鳴き声は一層大きくなる。
どうしたものかと首を捻ったローワンは、ふと視界の端に何かを捉えた。
段ボール箱だ。
一角がひしゃげたそれには、薄汚れたブランケットが丸めて入れてあった。持ち上げて側面を見ると、画用紙のようなものが張ってある。
携帯の明かりで照らしてみると、汚い字で「もらってください」と書いてあるのが見えた。
あの子犬はどうやらこの箱から逃げたらしい。
ローワンは箱を持って子犬の側へ戻ると、ブランケットを片手に再び手を伸ばした。
「お腹空いただろう。家に来ないか」
子犬は恐る恐るブランケットの臭いを嗅いだ。
やはりこの犬のものであったらしく、子犬は縋るようにブランケットに顔を寄せる。
その隙をつき、ローワンは一気に子犬の体を引き摺り出した。
それがいけなかった。
驚いたらしい子犬は、咄嗟にローワンの腕に噛み付いた。
「いっ!!」
鋭い痛みで離しかけた手を、根性だけで押し留める。
「大丈夫。大丈夫だから」