倉庫 GC-2

□また会う日まで
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ある晴れた冬の午後、久方振りに一同に介した葬儀社の面々は、食事会を済ませ東京湾の周辺をぶらりと歩いていた。
ツグミは上機嫌で綾瀬の車椅子を押し、大分先を行く四分儀や倉知をはじめとする面々も思出話に花を咲かせて笑顔を零している。
全てが終わった今となっては、あの苦難の日々も大事な思い出だ。
そんな穏やかな日常を噛み締める中で、ツグミはふと何かに吸い寄せられるように後方へと目を向けた。
平日の公園に人の姿は少なく、彼女達の他には、湾の近くに男が二人立っているくらいのものだ。
その男達も観光客だろうか、湾を指差しては、頻りに何か言葉を交わしている。

「あの人、どこかで……」

そのうちの一人、目深に帽子を被った金髪の男に既視感のようなものを感じ、ツグミはその男を凝視した。

「誰だっけ?」

記憶の底を掘り返し、符合する顔を探して思案する。
何処で出会った誰であったか。
その答えに辿り着くより先に、当の男がふとツグミの方に目を向けた。

「あっ!」

直後、男はツグミを指差し声をあげた。

「お前、あの時のちんちくりん!!」

張り上げられたその声に、ツグミは弾かれたように彼のことを思い出した。

「そうだ!アンタあの時の!」

急に大声を張り上げたツグミに対し、仰天して綾瀬が振り返る。

「ちょっとツグミ、何やって――」

ツグミはそんな綾瀬を背に庇うと、小さな体で男達に相手にファイティングポーズをとった。

「それ以上近付くとただじゃおかないかんね!」

けれど金髪の男はというと、心底呆れたような表情で溜め息を吐き、頭を掻きながら彼女達の方へと歩み寄った。

「やめてよ。ここ何処だと思ってるわけ?」
「うっさい!綾姉には指一本触れさせないよ!」
「はぁ?なんで僕がそいつに手を出すのさ」
「知らないわよ!」

噛み合わない会話に、綾瀬は頭上に疑問符を浮かべて首を傾げる。
それは金髪の男の同伴者も同じようで、綾瀬と視線を合わせると「さっぱりわからない」と言わんばかりに肩を竦めた。

「ツグミ、知り合い?」
「違うよ綾姉!コイツ、“皆殺しのダリル”だよ!」
「皆殺しって……えぇっ!?」

やっと事態を把握し、綾瀬は慌てて車椅子を反転させる。
もう一方の男もようやく理解したようで、苦虫を噛み潰したような顔をして頭を抱えた。
そんな両者の眼前で、ツグミとダリルは互いの連れを庇うように相対する。

「まさか生きてたとはね」
「お陰さまで」
「その人、アンタの仲間?」
「答える義理はないよ」

だが庇われる側の男の方は、ダリルの肩に手を置いて彼の前に一歩進み出た。

「直接会うのは初めてかな。初めまして、ローワンです」

人の良さそうな笑みを浮かべ、ローワンはツグミに右手を差し出した。
握手をしようと言うのだろう。
だがツグミは差し出された手を握り返そうとせず、探るような目でローワンを睨み付けた。

「何のつもりよ」
「挨拶以外に何かあるように見えるかな?」
「見えるから聞いてんの!」

今にも噛み付きそうなツグミの剣幕に、ローワンは困ったように眉尻を下げる。
そんな気まずい空気を打開したのは、一人蚊帳の外にあった綾瀬だった。

「初めまして、ローワンさん」

彼女はツグミの横を車椅子で通り抜け、割り込むようにしてローワンの手を取った。

「私は綾瀬。こっちはツグミです」
「綾姉!」

悲鳴のような声を上げるツグミに、綾瀬は窘めるように微笑む。

「大丈夫よ。もう終わったんだもの。それに――」

次いでダリル達を見遣ると、口の端に挑戦的な笑みを浮かべた。

「そちらとしても、目立つ真似は避けたいでしょう?」

ダリルはつまらなそうに鼻を鳴らし、彼女達から視線を外した。
 
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