倉庫 GC-2

□あくまでパロディ リターンズ
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旧狭境トンネルへ向かう途中、ローワンは一人の男を迎えに天王洲へ寄った。
嘘界曰く、彼が本件の依頼主なのだという。
いつから探偵紛いの仕事を始めたのかと頭を抱えたが、先生の決めたことには力を尽くすのが助手たるローワンの務めである。
しかして待ち合わせの公園に向かうと、そこには既に件の依頼主が待っていた。

「桜満集です。今日はよろしくお願いします」

高校生だろうか。整った顔をした、気の弱そうな少年だった。
そんな桜満少年を助手席に乗せ、ローワンは一路N県へと向かう。
道中、少年はぽつりぽつりと今回の目的を語った。

「9月の上旬でした。僕は涯と――あの写真に写ってる人なんですけど、その人とN県に遊びに行ったんです。他にも友達数人と近くのコテージに泊まって、夜になってから、花火をやろうって言い出して……。僕と涯はジャンケンに負けて、2km離れたコンビニまで歩いて買い出しに行ったんです。その帰りに、道を間違えて迷子になって。そんな僕を励ますために、涯がここで花火をしようって言い出して。二人で花火をしながら夜を明かしました」
「そのときの写真がこれなんだね?」
「はい」

写真の中で笑っている金髪の青年。涯というらしいこの男が、今回の件とどう関係しているのか。
少年は話を続けた。

「朝になったら友達が探しに来てくれて、次の日には東京に帰ったんです。でも、一月くらい経って、涯がいなくなってしまって……」
「君はその人を探しているんだね?」
「はい」
「でもただの人探しじゃない、かな?」
「……はい」

青年の失踪。そこに何らかのオカルト的事象があるからこそ、嘘界は興味を持ったのだろう。

「涯がいなくなってから、みんなが少しずつ、涯を忘れていったんです。みんなだけじゃない。涯が居たって証拠も、少しずつ消えていったんです」
「どういうことかな?」
「……なくなったんです。涯の家も、涯の写真も、みんなが持っていた涯に関するものが、いつの間にかなくなってしまった」

存在の消失。
それが今回のオカルトである。

「今はもう、僕しか涯を覚えていません。残っている写真も、お渡ししたそれだけです。僕が忘れてしまう前に、どうしても涯を見付けたいんです」

消え入りそうな声でそう言い終わると、桜満少年はシートベルトを握り締めて俯いた。

「お願いします。僕の大切な友達なんです」

外は間も無く黄昏時。
山の谷間に日が沈む。
 
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