倉庫 GC-2

□僕はまだ真実を知らない
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人生を振り返ると、思い出す言葉がある。
人に優しく。そう願うあの人の言葉が。
僕を庇って死んだあの人のために、その言葉通りに生きようと努力してきたした。
道端の花を愛でるように、死んだあの人に語りかけるように。
人を愛せる自分になれるよう、毎日を生きてきた。
人は簡単には変われないけれど、いつかきっと変わる日が来る。
そう信じて。

「それで、君は少しは変われたの?」
「さあね」

あの人を失って数年。
軍事刑務所を出た僕は、再び東京の土を踏むこととなった。
今日は死んだあの人の命日。
墓のないあの人のために、僕はこんな場所まで弔いに出向いた。
その先で偶然にも再会したツグミという女と、僕は今お茶を飲んでいる。

「さあねって、アンタねぇ……」

呆れた様子でカップを傾け、彼女はわざとらしく溜め息を吐いてみせる。
かつて敵だった彼女とこうして話ができるくらいには、僕は成長したのかもしれない。
そんな成長の証すら、あの人が見ることは永遠にないけれど。

「でも、いいんじゃない?」
「何がさ?」
「アンタの姿勢よ。変わろうって努力してるアンタ、凄くいいと思う。その――ローワン、だっけ?その人も今のアンタを見たら満足すると思う」

彼女がそう評するのなら、少しは自信を持っていいのだろう。

「喜んでくれるかな」
「大丈夫だって。アタシが保証してあげる」

笑う彼女に背を押され、僕は花束を手に席を立つ。

「それじゃ、僕はもう行くから」
「うん。またね」
「……ありがとう」
「どういたしまして」

胸を張って、あの人に会いに行く。
 

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