倉庫 GC-2

□過去からの手紙
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命あるものはいつか失われる。
どんなに金を積んでも、どんなに徳を重ねても、それだけは誰にも覆せない。
「好い奴ほど早く死ぬ」という言葉があるように、どんなに誠実に生きてみても、運命は残酷に命を終わらせる。
その事実はダリルの前にもありありと存在し、彼の大切なものをことごとく奪い取っていった。
ダリルの人生を鑑みるに、彼はお世辞にも「好い人」ではなかった。
最初こそ純粋無垢な幼子であったかもしれないが、その成れの果ては残虐な人殺しである。軍人という免罪符を以てしても、彼の所業は十分に悪であった。
故にだろうか。彼は罰を受けるように、自らの支えを全て失った。
はじめに奪われたのは父だった。
楽しみにしていた誕生日。父は彼を裏切り、若い女との時間を選んだ。見せ付けるように父の唇を奪った女の顔は、彼にとって思い出すことすら穢らわしいものだった。
怒りと嫉妬と失望と。激情に任せ、彼は自らの手で父を殺した。
それが上官からの命令だったとしても、引き金を引いたのは彼の意思だった。
次に失ったのは上官だった。
ただの上官ではない。彼にとって唯一の、自分を叱ってくれる人間だった。父の威光にへつらうでも、明白な敵意を向けるでもない。特別ではなく当たり前の子供として、彼を見守ってくれた。
その優しさが上官を殺した。
彼を見捨てることが出来なかった上官は、挙げ句彼を逃がすために死んでしまった。
或いは上官ははじめから、犯した罪の責任として、施設と運命を共にするつもりだったのかもしれない。

たった二つ。
彼の持っていた大事なものはそれだけだったのだ。
その二つを奪われて、彼の手に残ったのは自分の命だけ。
捨ててしまいたいほど嫌いなそれを、けれど彼は捨てられなかった。
そうして惰性のように生きた彼は、誰にも祝われることのない誕生日を、薄暗い牢獄の中で迎えることとなった。
孤独な誕生日は惨めなものだ。
誰かに祝ってもらえた日々があるなら尚のこと、戻らない過去は今を苦しめる。
絡み付く思い出から逃れようと、ダリルは掛布に身を隠してきつく目を閉じた。
眠りの世界に逃げ込めば、今日という日から逃げられると信じて。
 
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