倉庫 GC-2

□一ノ刻 影
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かつん、と石畳に足が触れてダリルは足を止めた。

「……あ」

顔を上げれば、古びた木戸の前に人の背が見えた。
見覚えのある背中だ。
はて、あれは誰であっただろうか。記憶の箱を漁ってみても、答えは何処にも見当たらない。
そうしているうちに、人影は音もなく木戸の向こうへ消えてしまった。

誰かの消えた戸を眺め、ダリルは独り考えた。
これから何処へ行ったものか。
見たところ、此処は日本家屋の中庭であるらしい。右手には苔生した石像のようなものがあり、その裏に隠れるようにして井戸があった。
出入り口は前後に二つ。後ろの戸はぴくりともせず、開くのは前方の木戸だけだ。
ならば進む先は一つ。ダリルは躊躇することなく、前方の木戸を引き開けた。
開けて目の前には襖があった。襖は僅かに開いているが、人が通れるほどの隙間はない。向こう側へ行くには左右から回り込む必要がある。右は木材が廊下を塞ぎ、通り抜けるのは難しい。となれば左を通る他ないだろう。
壁に手を当て、襖に視線を向けながら廊下を回る。
明かりのない部屋では、手の届く範囲が辛うじて見えた。そんな状態だからだろう。誰かから見られているような錯覚に、彼は度々辺りを見回した。
廊下を回りきると、開けた場所に出た。
目の前には柱。襖に囲われていた場所には燭台が見えた。
柱の奥に目を凝らすと、また先ほどの人影が立っていた。
真っ暗闇の中であるにも拘わらず、その背は彼の目にはっきりと写っていた。
この背について行けば、辿り着くことが出来るかもしれない。
ダリルは縋るようにしてその背を追い掛けた。
辿り着く先が何処であるのか、少しも疑問を抱かずに。

背中を追い掛けダリルが辿り着いたのは、先ほどとはまた別の中庭だった。月の光が差し込むそこでは、室内とは違い辺りの様子を窺い知ることが出来た。
雪の降る庭の中央には、枯れかけた木が一本鎮座していた。地面にはその木をとり囲むように、無数の人形のようなものが突き立てられていた。
あまりに異様な光景に、堪らず彼の足は歩を止めた。だが追い掛ける背中は構うことなく先へ進み、枯木の向こうの戸をすり抜けて消えてしまった。
このままあの背を追い続けるか、もと来た道を引き返すか、或いは別の道を行くか。
僅かに悩んだ末、彼はこのままあの背を追い掛けることを選んだ。
 
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