倉庫 GC-2

□一ノ刻 影
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深々と降る雪の中に、彼は独りで立っていた。
目の前には雪に埋もれた日本家屋。夜闇に浮かぶそれは、彼を喰らわんと大口を開けているように見えた。
中に人の気配はない。
自身の呼気の他に、聴こえる音は何もない。
誰の目にも異様に写るであろうそれを、しかし彼は微塵も疑ってはいなかった。
一歩足を進めれば、雪が潰れて小さく鳴いた。
きしり、きしり。
自身の他が奏でる音に、彼は楽しげに目を細めた。
さくり、さくり。
そうして雪を踏み鳴らしながら、彼はゆっくりと屋敷へ近付いていった。
きしり、さくり、きしり、さくり。
屋敷はぽっかりと口を開け、彼の姿を飲み込んでいった。
 
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