倉庫 GC-2

□二ノ刻 写真
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残されたダリルは御簾のある座敷から階段廊下へと戻った。
さて、此処から行けるルートは三つ。来た道を戻るか、3階へ上るか、中庭へ抜けるかだ。
だが選択肢は実質一つ。
来た道を戻る必要はなく、行き止まりの3階へ上る意味もない。
ダリルは鍵束を握り締め、一路墓のある中庭へと向かった。

階段を下りると扉があった。
腰の高さ程しかない、小さな扉だ。
その左端には鍵がかかっている。
今こそ渡された鍵の出番である。
鍵には彫刻が施されており、此処のそれは角立て井筒と呼ばれる紋様のようだった。
少女から渡された鍵束を探せば、同じ紋様が彫られた鍵が一本あった。これが正解らしい。
差し込み右に回せば、鍵は容易く開いた。
腰を屈め、頭を下げて扉を潜る。
この先が染みのある回廊、そしてその先が墓のある中庭だ。
それにしも、染みのある回廊とは変わった名称である。はてさてどんな染みがあるのか。
疑問を抱きつつ足を踏み入れた彼は、すぐにその意味を知ることとなった。

「……なんだ、これ」

進んだ先、突き当たりの壁に、その染みはあった。

「気味悪い……まるで人じゃん」

漆喰で固められた回廊の壁に、黒く大きな染みがあった。染みは成人男性が張り付きでもしたかのように、はっきりとその形を浮かび上がらせていた。
ぞっとして、彼は右に大きくよろめいた。
その彼の視界に、更に異様なものが写った。
崩落した壁の隙間から、人の手のようなものが突き出ていた。

「ひっ」

喉から零れた悲鳴を、口を塞いで押し留める。

「冗談きついって……」

近付いて確かめる勇気は出なかった。
代わりに彼はカメラを構え、それにピントを合わせた。
姿形は完全に手だ。木の根に見えないこともないが、彼はそうだと判断できるほど楽観的な思考を持ち合わせていなかった。

「人柱ってわけかよ」

建築の過程で人間を壁の中に埋め込むという人柱。
彼の国にもその類いの話はあったが、実際に本物を目にするのは初めてだ。
好奇心に誘われ、彼はシャッターを切った。

ガシャン。

派手な音をたて、カメラはそれをフィルムに収めた。
今度は不可思議な声に襲われることもなく、代わりにはらりと写真が落ちた。
拾い上げ、写ったものを確認する。
案の定と言うべきか、写り込んだものは被写体ではなかった。

「誰だ、こいつ?」

写っていたのは紫の髪をした男だった。
左目は義眼だろうか。機械めいたおかしな装飾が見てとれる。
男は口を三日月に歪め、ノコギリのような歯を覗かせて笑っていた。
気味の悪い男だと彼は思った。
何にせよ、一つわかったことがあった。

「なんで変なものばっかり撮れるんだよ?」

このカメラが写すのは此処ではない何処かなのだ、と。
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