倉庫 GC-2
□二ノ刻 写真
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写真とカメラを拾い上げ、ダリルはゆっくりと戸に向き直った。其処には依然として、ボロボロの紙人形が張り付けられている。
「お前が僕に見せたのか?」
尋ねても、人形が答えを返すことはない。
「……だよね」
自嘲し、彼は戸を柔らかく突いた。
すると何処からか、カタリと小さな音が鳴った。
動いた。
そう気付き、ダリルは慌てて戸を引いた。
驚くべきことに、あれだけ固かった戸はあっさりと開いた。つっかえ棒も閂もない。がらんとした廊下と、僅かに開いた窓があるだけだ。どんな仕組みなのかさっぱりわからない。
それでも開いたのだから見てみようと、ダリルはその部屋へ入った。
戸を潜り板張りの廊下を進むと、広い座敷に出た。
出入り口の側――座敷に上がって左奥には、御簾に囲まれた寝床と思しき場所があった。左奥には押し入れ。他に目ぼしいものはなく、人がいる様子もない。
この部屋は外れだったか。
ダリルは踵を返し、座敷から板張りの廊下へと引き返した。と――
クン、と服の裾を引かれ、彼は足を止めた。
足元を見れば、いつか見た着物姿の少女がいつの間にやら立っている。
「うわっ!びっくりした!いたのかよ」
驚くダリルに、少女はにこりと笑って何かを差し出した。
「何さ?」
見ればそれは携帯端末のようだった。
ボタンを押せばすぐに画面が光った。
起動した端末の画面に浮かぶのは、何処とも知れない場所の見取り図。その一角が赤く明滅し、現在地と表示されている。
どうやらこれはこの屋敷の地図であるらしい。
御簾のある座敷。それが今彼のいる部屋の名だ。
「なんで、これを?」
画面から顔をあげると、少女は更に何かを彼に差し出した。
『うち、これ頼まれてん』
か細い声で呟き、少女が手渡してきたのは鍵の束だった。
『あの人追い掛けるなら、あげる。うち、もういらんし』
あの人というのはあの白い服の男のことだろう。
「アイツのこと、知ってんの?」
『うちは知らんよ』
「じゃあなんで――」
『そんなん、今はどうでもええの』
問い詰めるダリルに頭を振り、少女は諭すように言った。
『帰る道もあるけど、みんな追い掛けてしまう。ほんなら、うちはそれでもええと思う。会えた方が幸せやもん』
そうして彼女は無邪気に笑い、彼を追い抜いて廊下を歩き出す。
その先には着物を着た女が一人、少女を待つように立っていた。
女は駆け寄る少女を抱き留めると、ダリルに柔らかい笑みを向けた。
すぐにわかった。
この女が、少女の母親である。
少女は母親の隣に並ぶと、再び彼に言った。
『ちゃんとお別れ言うてな、お兄ちゃん』
それが少女の最後の言葉だった。
彼女はダリルに手を振ると、母親と共に光の粒となって消えた。