倉庫 GC-2

□緋色症候群
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越えてはいけない一線を越えてしまった気がする。ダリルの首筋に舌を這わせながら、今更そんなことを考える。
この浅ましい性(さが)を慰めるために我が身を差し出してくれた彼の血は、空腹も相俟って極上の味だった。
擦り切れそうな理性で懸命に欲望に抗っても、上下する喉を止めることが出来ない。
さぞ痛い思いをしているだろうと彼の顔を盗み見れば、ダリルは焦点の定まらない目に愉悦の色を滲ませていた。
脳内麻薬でも出ているのだろう。痛みを感じていないであろう彼の様子だけが、今は救いだった。
それでもそろそろ潮時。
曲がりなりにも吸血鬼だ。体に障る量というものは感覚でわかる。

「ダリル、もう大丈夫だ。手当てしよう」

首筋から顔を上げ、袖口を押し当てて傷口を塞ぐ。
唾液である程度出血は抑えられるが、裂かれた傷を完全に塞ぐことは出来ない。早めに処置をしなければ、傷口が膿まないとも限らない。
だというのに、彼は私の腕を引き、熱に浮かされたような掠れた声音で囁いた。

「ねぇ、もっと」

大きく脈打つ鼓動の中で、どこか遠く、箍(たが)の外れる音を聞いた。
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