倉庫 GC-2
□緋色症候群
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自分には被虐願望があるらしい。
更には痛みを快楽に変換するイカれた脳までついているのだから、なかなか危うい性癖だと自覚している。
そして幸か不幸か、自分の近くにはこの身を傷付けてくれる化け物が存在している。
彼の名はローワン。吸血鬼であるらしい。
らしい、というのも、僕は彼が血を吸うところを一度も見たことがない。
隠れて吸っているのか、いつまでも痩せ我慢をしているのか。何にせよ、僕の血を吸ってくれればいいのに、などと考えてしまうのは不謹慎だろうか。
いや、これが本心なのだから救えない。
なのに彼とくれば、「君を襲ったりしないから安心してくれ」などと見当違いな言葉を僕に聞かせてくれる。このへたれ吸血鬼め。
そんな彼にも限界というものはあるようで、今僕の目の前にいる彼は、まるで炎天下に這い出してきたミミズのようにぐったりと地面に倒れ伏していた。
「もうさ、僕の血飲んじゃいなよ」
流石にこの状況では拒むまい。
そう踏んだ僕だったが、彼は思いの外強情だった。
「大丈夫だ。少し、目眩がしただけだから」
そう言いながら、彼は膝をついてのそのそと起き上がる。
だが強がるだけの力も残っていなかったらしい。膝立ちになったところで、芯を抜かれたかのように地面に崩れ落ちた。
「意地張るのやめなよ。僕がいいって言ってるんだからさ」
「本当に大丈夫だから」
「大丈夫な人はこんなところで行き倒れたりしないんだけど」
「人じゃないから大丈夫だよ」
なかなかどうして頑固な吸血鬼である。
こうなれば実力行使の他に道はない。
「わかったよ。アンタがそこまで言うなら、僕にも考えがある」
彼の体を仰向けにひっくり返し、彼にもはっきり見えるように襟を裂き首筋を晒す。
「よーく見ておくといいよ」
そしてそこへナイフを押し当てると、
「待て、ダリル!!」
彼の制止を無視し、一気に肌を引き裂いた。
「ッ!」
痛みは一瞬。
溢れた血が肌を滑る感覚に、僕は背筋を駆け上がる快感を覚えた。
やはり自分の性癖は危うい。そう思う。
思うだけで制止が効かないのがその証。
「ほら、飲みなよ」
手のひらに血液を掬い取り、驚愕に見開かれた彼の前にそれを差し出す。
「あげるよ、ローワン」
生唾を飲む彼の喉に、ぎらぎらと光る獣のような目に、僕は堪えきれない笑いを迸らせた。