倉庫 GC-2

□Priceless
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綺麗にラッピングされた箱を抱え、ツグミは店内で会った男と歩道を歩いていた。
結局彼女は数万円のアンティークと引き替えに、この怪しい男の頼みを受け入れたのだった。
勿論ほいほいとついて行くのには理由がある。
話を聞けば、祝ってほしい相手は彼女も知っている人物。
そして頼んできた男の正体も、よくよく考えれば推測はできた。

「いいんですかー、こんなところをうろついてて。アタシ通報しちゃうかもしれませんよ?」

男の名はローワン。
かつてアンチボディズに所属し、ツグミ達葬儀社と敵対していた人物だ。
面と向かって対したことはないが、情報としては何度も目にしてきた。
それはローワンの方も同じようで、彼もツグミのことは葬儀社のメンバーとして認識していた。

「通報は……出来れば勘弁してほしいな」
「お願いなんだ?」
「強制は出来ないからね」

今は追われる身のローワンだが、人混みを歩く彼の足取りは堂々たるものだ。
捕まらない自信があるのか、交番の前も平然と通過して見せた。
そうして彼が案内したのは、7階建ての真新しいマンションだった。

「へぇ、割といいところに住んでるんだ」

逃亡中でも資金は相当あるらしい。
その出所をそれとなく探るツグミに、技術は宝だと彼は笑った。
大方、技師の知識や腕を商品にしているのだろう。
彼等が住んでいるのは5階の角部屋。
表札に書かれた山田の文字は、偽名にしては苦しいものがあった。

「それじゃあ、君は出来るだけ静かに廊下で待っていて。荷物は好きなところに置いてくれて構わない。合図をしたら、部屋に入ってきてもらえるかい?」

打ち合わせは有って無いようなもの。
要は驚かせることが出来れば良いと彼は言った。
ツグミはそれに「アイ」と答え、おどけた仕草で敬礼をして見せた。



玄関を開けてすぐは、ダリルの姿は見当たらなかった。
帰った者を出迎える習慣は、彼等にはないらしい。
ローワンは手早くツグミを招き入れると、「手はず通りに」という言葉を残して先に奥へと上がっていった。
それを見届け、彼女は物音を殺して廊下に上がった。
中はなかなか生活感のある、物に溢れた空間だった。
廊下の奥に見えるリビングらしき部屋も、脱ぎ捨てられた洋服で程好く散らかっているように見える。
本当にここで暮らしてきたのだと、ツグミはようやく実感を得た気がした。
さて、今回の主役たるダリルはそのリビングに居るようで、彼女はまた音を立てぬよう細心の注意を払いながらドアの近くまで足を進めた。

「ただいま、ダリル」

扉の向こうでは、丁度ローワンがダリルと接触したらしい。

「遅かったね。寄り道?」
「ああ。なかなか良い物が見付からなくてね」
「あんまりふらふら出歩かないでよ。アンタが捕まったら僕までお仕舞いなんだからさ」

つっけんどんなダリルの言葉に、苦笑するローワンの声が聞こえる。

「心配してくれたのかい?」
「なっ!?べ、別に!そんなんじゃないし!」

扉一枚向こうで交わされる面映ゆいやりとりに頬を緩ませ、彼女は左手にクラッカーを忍ばせる。
道中こんなものまで購入する辺り、ローワンの本気が窺える。

「折角だから、君に誕生日プレゼントを用意したんだ」
「プレゼント?」

さて、頃合いである。
タイミングを計りつつツグミがドアノブに手を掛けると、引くより先にリビングの内側から戸が開かれた。
これが合図に違いない。そう了解すると、彼女はクラッカーの紐に指を掛けながらリビングへ飛び込んだ。

「ハッピーバースデー、もやしっ子のダリル!」

弾けるクラッカーと、ほんのり漂う火薬の香り。
大きく目を見開いた今日の主役は、昔と少しも変わってはいなかった。

 
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