倉庫 GC-2
□Priceless
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路地裏の小さなアンティークショップの中で、ツグミは一人ショーケースに並ぶオルゴールを眺めていた。
手のひらほどの大きさの、シロクマのぬいぐるみでできたオルゴール。アンティークなだけあり、その値段はかなり高めだ。
「やっぱり無理だよね……」
財布の中身を確認するまでもない。
彼女の所持金で易々と衝動買いできるほど、それは安い買い物ではなかった。
「でもなー。これを逃すと二度と手に入らないかもしれないし……」
高額だが、財布の中身を空にすれば買えない額ではない。それが彼女の決断を鈍らせていた。
「うーん」
唸り声をあげ、ツグミはショーケースに額を押し付ける。
その背後から、不意に誰かが声をかけた。
「そのぬいぐるみが欲しいのかい?」
驚いて振り返ると、そこには見慣れない外国人の男が立っていた。
「驚かせてすまない。少し隣を見せてもらってもいいかな?」
男はぬいぐるみの横にある万華鏡を指差し、申し訳なさそうに笑った。
「いいですけど」
「ありがとう」
ツグミは少し不満げな顔をしたものの、男の方はそれを気に止めることもなく礼を告げて隣に並んだ。
その顔を横から眺め、ツグミは何か引っ掛かるものを感じた。
「あの」
「なんだい?」
「どこかで会ったことあります?」
この男の顔を、彼女はどこかで見た気がした。
そう遠くない日に、そう遠くない場所で。
けれど男は首を傾げ、困ったように笑った。
「会ったことはないんじゃないかな」
元来、外国人に日本人の顔を見分けること自体が難しいのだ。更に記憶するとなると、余程印象深い出会いをしていなければ難しい話だろう。
「そうですか」
ツグミは肩を落とし、彼から視線を外してぬいぐるみに向き直った。
相も変わらず諦めはつかず、かといって買う覚悟も決まらない。
「そんなに欲しいのかい、そのぬいぐるみ?」
そんな執着が伝わったのだろう。
男は苦笑し、ぬいぐるみを指差しながらツグミに尋ねた。
「もしよかったら、僕に買わせてくれないか?」
「はぁ!?」
予想だにしない発言に、ツグミは思わず大声を上げた。
次いで慌てて自身の口を塞ぎ、静かな店内をキョロキョロと見回す。
幸い彼女達の他に客は居らず、彼女はほっと胸を撫で下ろして彼に向き直った。
「ねぇ、日本語大丈夫?自分が何言ったかわかってる?」
「もちろん。それに、なにもタダで買おうってわけじゃない。君に頼みたいことがあるんだ」
「頼みたいこと?」
胡散臭い。そう思わずにはいられない。
それでも男は人の良さそうな笑みを浮かべ、ツグミに頼んだ。
「僕の連れの誕生日を、一緒に祝ってほしいんだ」