倉庫 GC-2

□三ノ刻 背中
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「なん、で?」

石像が立ち並ぶ、そこは最初にあの背中を見た中庭だった。
端末に表示された現在地は墓のある中庭。
ダリルにしてみれば振り出しに戻ったに等しいその場所は、地図で見れば屋敷の中央部分だ。

「どうなってんだよ……」

わけがわからないと、彼はその場にしゃがみこんだ。
この屋敷はおかしい。地図の通りに出口を目指しても出られない。そんな気がした。
だがいつまでも止まってはいられない。一度呼吸を整えると、最初にあの背中が消えていった木戸へと歩み寄った。
そこで一つの変化に気付く。

「鍵なんてあったっけ?」

先ほどは開いていたはずの木戸に、いつの間にやら錠前が掛けられている。
向かい橋の紋様が彫られた、倉庫錠のようなものだ。

「なんでだよ……確かに此処を通ったはずなのに!」

やはりこの屋敷は何かおかしい。
家そのものが彼を絡めとろうと、己が身を捩っているようだ。
こんな場所に長居は無用。彼は鍵束から同じ紋様の鍵を探し出すと、乱暴にそれを鍵穴に差し込んだ。
鍵はすぐに開き、重力に従って地面に落下した。
鍵の外れた木戸に手を掛け、ダリルは一度深く息を吸った。
顔を伏せ、固く目を閉じ、祈ることは唯一つ。
この木戸の先が出口へ続くと信じて、彼は勢いよく戸を開けた。
恐る恐る片目を開き、まず確かめるのは足許。
確か先ほどは目の前に襖があったはずだが、今回は数段の段差があるようだった。
地図には「丸窓のある玄関」と表示されている。最初に通った場所とは違うようだ。
その事実に安堵し、彼はようやく顔を上げた。
辺りを見回し、確かに玄関であることを確認する。
壊れた衝立や瓶が転がるそこは、鐘が吊るされた廊下へ真っ直ぐに続いている。
その先にふと、何か白い影が見えた。
追い求めたあの背中だった。

「お前!」

その背は彼の制止も聞かず、廊下を左に曲がっていった。

「待てよ!アンタに聞きたいことがあるんだ!」

今度こそ追い付いて見せる。
カメラに加わる衝撃も気にせず、彼は死に物狂いで追い掛けた。
だが角を曲がる頃には、あの背は何処かへ消えているのだ。
流石にもう、彼も気付き始めていた。
あの背は追い付けるものではない。虹の袂を追うように、決して辿り着けないものなのだと。
善か悪か、何れかの意思をもって自分を導く、水先案内人のような存在なのだと。
けれど彼はあの背に追い付きたかった。
彼の中の何かが、執拗にあの背を求めていた。
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