倉庫 GC-2

□三ノ刻 背中
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奇妙なカメラが写す世界は、何故だかダリルの心を強く刺激した。そして強い郷愁を生んだ。
もっと撮れば、この感情の理由がわかるかもしれない。
ダリルは衝動に任せ、手当たり次第にシャッターを切った。
天井を、壁を、廊下を、自分を、彼はフィルムが切れるまで、ひたすら写真に収め続けた。
溜まったフィルムを確認すれば、やはりそこには知らない風景が写り込んでいた。
水上の建造物や荒廃した街並み、結晶に侵食されたビル、大破した戦闘機。大きな戦でもあったのか、酷く傷付いた世界がそこにはあった。
そしてそれを証明するかのように、新聞の写り込んだ写真が一枚落ちていた。
新聞の見出しに躍る「宣戦布告」の文字。
掲載された写真には銀髪の男と数機のエンドレイヴが写っている。
記事には東京の地図が添えられ、恙神涯なる人物が世界相手に宣戦布告した旨が記されていた。

「これ、日本の……?」

そこでようやく、彼は自身の所在を理解した。

「此処……日本なの?」

気付いてしまえば、彼は自らの置かれた状況に疑問を抱き始める。
此処は何処で、どうして自分はこんな場所にいるのか。
他に誰もいないのは何故なのか。
そもそも自分は何者であるのか。
今まで考えなかったことが異常だと思えるほど、彼は何も知らなかった。

「何なんだよ……何なんだよ一体!」

あるはずの記憶を探り、彼は懸命に自分を思い出そうとした。
名前は――ダリル。覚えている。生まれはアメリカ。髪は金で、瞳は紫。歳は――いくつだっただろうか。
父や母の名も思い出せない。学校に通った記憶はなく、友人の一人も思い出せない。日本を訪れた記憶など、あるはずもなかった。
恐慌状態に陥り、ダリルはその場に写真を打ち捨て走り出した。
ロの字に曲がった回廊の出口は反対側。
ぐるりと回り、転がり出るようにして戸を潜った。
けれどそこに広がる光景は、彼を更なる混乱の中へと突き落とした。
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